## ヘミングウェイのキリマンジャロの雪の美
### ヘミングウェイの描く風景描写の美しさ
ヘミングウェイは無駄のない簡潔な文体で知られていますが、「キリマンジャロの雪」では、その筆致は研ぎ澄まされながらも、アフリカの大自然の描写においては、鮮烈な美しさを放っています。特に印象的なのは、主人公ハリーが飛行機から眺めるキリマンジャロの雄大な姿です。
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キリマンジャロは、それ以外には何もない平地からそびえ立ち、太陽に照らされて白く輝き、巨大なように見えた。
この一文は、わずか数語でキリマンジャロ山の壮大さを表現しており、読者の心に鮮明なイメージを焼き付けます。 ヘミングウェイは、形容詞を最小限に抑えながらも、 “白く輝き” や “巨大な” といった言葉を選ぶことで、その美しさとスケールの大きさを際立たせています。
### ハリーの回想と対比をなす美しさ
物語は、ハリーの現在の危機的な状況と、彼の過去の鮮やかな回想シーンが交錯する形で進行します。 ハリーが回想するパリ、コンスタンチノープル、ブダペストといった都市の風景や、そこで出会った人々との記憶は、アフリカの荒涼とした風景とは対照的な美しさを放ちます。
例えば、ハリーがパリで過ごした日々を回想するシーンでは、彼が愛した女性との幸福な時間が、ノスタルジックな筆致で描かれています。
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彼らはカフェで座り、アペリティフを飲み、通り過ぎる人々を眺めていた。
このような回想シーンは、ハリーの置かれた状況の悲惨さと対比をなすことで、失われた過去の美しさをより一層際立たせる効果を生み出しています。
### 死の影に潜む美しさ
「キリマンジャロの雪」は、死をテーマとした作品ですが、死の影に覆われた状況においても、ヘミングウェイは独自の美意識を見出しています。 例えば、瀕死のハリーの前に現れるハイエナの描写は、不気味ながらも、ある種の美しさをたたえています。
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ハイエナは、暗闇の中で二つの緑色の光を輝かせていた。
死の象徴として描かれるハイエナですが、その姿はグロテスクに表現されるのではなく、”緑色の光” という美しいイメージと結び付けられています。 これは、死という避けられない運命に直面した人間と、それを受け入れる自然との対比を際立たせると同時に、生の儚さと対照的な、死の静寂の中に存在する美しさを暗示しているようにも解釈できます。
ヘミングウェイの「キリマンジャロの雪」は、簡潔な文章の中に、アフリカの大自然の雄大さ、失われた過去の美しさ、そして死の影に潜む美しさなど、様々な形の美が凝縮された作品と言えるでしょう。