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ケルゼンの純粋法学の思想的背景

## ケルゼンの純粋法学の思想的背景

1. 新カント主義の影響

ケルゼンは、新カント主義、特にハインリヒ・リッケルトとヴィルヘルム・ヴィンデルバントのバッデン学派から大きな影響を受けています。新カント主義は、カント哲学を現代的に解釈し、認識論、価値論、文化哲学などの分野で影響力を持つようになりました。

ケルゼンは、新カント主義の**方法論的二元論**、つまり**自然科学と文化科学の厳格な区分**を法学に適用しました。自然科学が因果律に基づいて客観的な法則を明らかにしようとするのに対し、文化科学は価値や意味といった主観的な側面を扱うとされます。ケルゼンは、法学を文化科学の一分野と位置づけ、法を**「規範」**として捉えることで、自然科学的な因果律に基づく説明ではなく、**規範的な論理に基づく説明**を目指しました。

2. 法実証主義の伝統

ケルゼンの純粋法学は、法実証主義の伝統に位置づけられます。法実証主義は、法を**「あるべき法」**(自然法)ではなく、**「現実にある法」**(制定法)として捉え、その体系的な理解を目指します。これは、中世以来の自然法論に対する反動として、近代になって登場した考え方です。

ケルゼンは、法実証主義の立場から、法と道徳を明確に区別し、**法の妥当性を道徳とは独立したもの**として捉えました。これは、法の客観性と科学性を確保するために不可欠な前提でした。彼は、法の妥当性の根拠を、最終的に**「Grundnorm(基本規範)」**という仮説的な規範に求めました。基本規範は、それ自体が妥当性の根拠を持たないものの、他のすべての法規範に妥当性を与えるという、一種の**「前提」**として機能します。

3. 国家論の影響

ケルゼンは、国家論の分野においても独自の立場を展開しました。彼は、**国家と法を同一視する「法実体説」**を批判し、**国家を法秩序として捉える「法秩序説」**を主張しました。これは、国家を、特定の領土と国民を支配する**「実体」**ではなく、**法規範の体系**として理解する立場です。

ケルゼンの国家論は、彼の純粋法学と密接に関連しています。彼は、法の妥当性を、国家の権威や国民の意思といった**外部的な要素にではなく、法秩序内部の基本規範に求める**ことで、純粋に規範的な法理論を構築しようとしました。

これらの思想的背景は、ケルゼンの純粋法学を理解する上で欠かせないものです. 彼の理論は、法と道徳の区別、法の妥当性の問題、国家と法の関係など、現代法哲学における重要な論点を提起し、その後の法理論に大きな影響を与えました。

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