## ミルトンの失楽園の思想的背景
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宗教的背景
ミルトンは敬虔な**ピューリタン**であり、『失楽園』はその信仰を色濃く反映しています。作品の中心テーマである**原罪**と**神の恩寵**は、キリスト教神学の根幹をなす概念です。
* **原罪:** アダムとイブが神の戒命に背いたことで、人類は罪深い存在となり、神の怒りを買うことになりました。この原罪の概念は、人間存在の根源的な罪深さを強調し、神の救済の必要性を説くものです。
* **神の恩寵:** 神は罪深い人間を救済するために、自身の息子であるイエス・キリストを地上に送り、十字架にかけさせました。この神の無償の愛と犠牲によって、人間は救済され、永遠の命を得ることが可能になります。
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ルネサンスの影響
ミルトンはルネサンス期に教育を受け、古典文学や人文主義思想に深く通じていました。
* **古典文学:** 『失楽園』は、ホメーロスの叙事詩『イリアス』や『オデュッセイア』、そしてウェルギリウスの『アエネーイス』など、古代ギリシャ・ローマの古典文学から大きな影響を受けています。特に、壮大なスケール、高尚な文体、そして神々や英雄たちの活躍を描く叙事詩の伝統は、『失楽園』においても色濃く継承されています。
* **自由意志:** ルネサンス人文主義は、人間の理性と自由意志を高く評価しました。ミルトンもまた、人間は自らの意志で善悪を選択する自由を持つと考えました。アダムとイブの堕罪は、彼らが自らの自由意志によって神の戒めに背いた結果であり、この選択が人類に悲劇をもたらしたことを示しています。
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政治的背景
ミルトンは、当時のイングランドで巻き起こった**ピューリタン革命**に深く関わっていました。彼は共和制を支持し、王権神授説を否定しました。
* **自由と責任:** ミルトンは、政治的な自由と同様に、個人の精神的な自由も重要だと考えていました。彼は、人間は自らの信念に従って行動する自由を持つべきだと主張しました。
* **反逆と服従:** 『失楽園』では、サタンが神に対する反逆者として描かれています。これは、当時のイングランドで王権に対する反逆が大きな問題となっていたことを反映していると考えられます。
ミルトンの『失楽園』は、宗教、文学、そして政治といった様々な要素が複雑に絡み合った作品です。彼は、当時の社会状況や自身の思想を背景に、壮大なスケールで人間存在の根 essence を描いたと言えます。