マルクスの資本論の思考の枠組み
マルクスの問題意識
マルクスの主著『資本論』は、近代資本主義社会の矛盾を解明し、その必然的な崩壊と新たな社会の到来を論証しようとする壮大な試みです。
マルクスの関心は、当時の資本主義社会に蔓延する貧困、格差、労働者の搾取といった社会問題に向けられていました。彼は、これらの問題は単なる社会現象ではなく、資本主義社会の構造そのものに根ざしていると考えたのです。
唯物史観
マルクスの思考の根底には、「唯物史観」と呼ばれる歴史観があります。
唯物史観は、人間社会の歴史を、物質的な生産力と生産関係の矛盾運動によって説明しようとするものです。
* **生産力**:人間が生活資料を生産するための能力や技術、生産手段などを指します。
* **生産関係**:生産活動における人々の関係、所有関係や支配関係などを指します。
唯物史観によれば、生産力は常に発展していくのに対し、生産関係は特定の生産力の水準に適合した形で固定化されようとします。しかし、生産力の発展に伴い、既存の生産関係は次第にその発展を阻害するようになり、両者の間に矛盾が生じます。この矛盾が限界に達すると、社会変革や革命が起こり、新たな生産関係が成立することで、生産力は再び発展していく、という歴史観です。
資本主義の分析:価値形態論と剰余価値論
マルクスは、『資本論』において、この唯物史観に基づき、資本主義社会を分析していきます。
資本主義社会を特徴づけるのは、商品生産が社会の隅々まで行き渡っていることです。マルクスは、商品の分析を出発点とし、資本主義経済のメカニズムを解き明かそうとしました。
**価値形態論**
マルクスは、商品の価値は、それを生産するために費やされた社会的必要労働時間によって決まると考えました。そして、商品には、使用価値と価値という二つの側面があると指摘します。
* **使用価値**:人間の欲求を満たすための有用性のこと。
* **価値**:他の商品と交換される際の量的比例関係のこと。
マルクスは、価値が貨幣という形態をとることで、資本主義社会における交換が成立すると説明しました。
**剰余価値論**
マルクスは、資本主義における利潤の源泉を「剰余価値」に求めました。資本家は、労働力をその価値に見合った賃金で雇い、労働者に労働させます。労働者は、労働によって自分たちの賃金以上の価値を生み出しますが、その超過部分は資本家に搾取され、剰余価値となる、とマルクスは考えました。
資本主義の矛盾と展望
マルクスは、資本主義の矛盾として、以下のような点を指摘しています。
* **生産の無政府性**:個々の資本家は利潤を追求して生産活動を行うため、社会全体の需要と供給のバランスが崩れ、経済危機が発生しやすくなる。
* **労働の疎外**:資本主義社会では、労働者は自己の労働を支配することができず、労働は疎外されたものとなる。
* **階級闘争の激化**:資本家と労働者の利害は対立しており、階級闘争は不可避的に激化していく。
マルクスは、これらの矛盾は資本主義社会に内在するものであり、最終的には資本主義は崩壊し、労働者が生産手段を所有する共産主義社会が到来すると予測しました。