## ヴェブレンの企業の理論の思考の枠組み
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産業システムとペキュニラリー・システム
ヴェブレンは経済活動を**産業システム**と**ペキュニラリー・システム**の二つに区分しました。
**産業システム**とは、社会の物質的な豊かさを作り出すためのシステムであり、技術者や労働者といった人々が、資源を加工し、有用な財やサービスを生産する活動全般を指します。ヴェブレンはこの産業システムこそが経済活動の本質であると考えました。
一方、**ペキュニラリー・システム**とは、貨幣経済における金銭的な利潤を追求するシステムです。企業家や金融業者が、価格操作や企業買収などを通じて、金銭的な利益を最大化しようとする活動が含まれます。
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顕示的消費と顕示的遊休
ヴェブレンは、ペキュニラリー・システムにおける企業家の行動原理として、**顕示的消費**と**顕示的遊休**の概念を提唱しました。
**顕示的消費**とは、高価な財やサービスを消費することによって、自らの社会的地位や富を誇示しようとする行動です。ヴェブレンは、人間には本来、他者よりも優位に立ちたいという欲求があると考えた上で、この欲求がペキュニラリー・システムにおいて顕示的消費を促進するとしました。
**顕示的遊休**とは、生産活動に従事せず、 leisure class (有閑階級) として優雅な生活を送ることを誇示する行動です。これは、労働が下層階級の行為と見なされる社会において、自らの社会的地位の高さを見せつけるための手段として機能します。
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企業の目的と行動
ヴェブレンは、企業の目的を、産業システムにおける「財やサービスの効率的な生産」ではなく、ペキュニラリー・システムにおける**「金銭的な利潤の追求」**にあると捉えました。
企業は、利潤を最大化するために、生産量を制限したり、価格を操作したり、広告を通じて消費者の購買意欲を操作したりします。ヴェブレンは、このような企業の行動は、社会全体の物質的な豊かさを増大させるのではなく、むしろ阻害する可能性があると批判しました。
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技術革新とサボタージュ
ヴェブレンは、技術革新を産業システムにおける重要な要素と捉えながらも、ペキュニラリー・システムの下では、技術革新が必ずしも社会全体の利益に繋がるとは限らないと指摘しました。
企業は、技術革新によって生産効率を向上させる一方で、既存の設備や技術を陳腐化させ、市場における競争を激化させる可能性があります。ヴェブレンは、企業がこのような状況を避けるために、技術革新を抑制したり、意図的に遅らせたりする行動を**「サボタージュ」**と呼びました。
以上が、ヴェブレンの「企業の理論」における主要な思考の枠組みです。彼は、企業が金銭的な利潤を追求するために、社会全体の利益を損なう可能性のある行動をとると批判しました。