## ソルジェニーツィンの「癌病棟」の秘密
秘密1：癌病棟はソビエト社会の縮図
「癌病棟」では、様々な経歴や立場の人々が癌という共通の敵と闘うために一堂に会しています。ここには、スターリン体制下で弾圧を受けた元政治犯、体制に忠実な共産党員、戦争で傷ついた兵士、宗教的な信仰を持つ女性など、ソビエト社会の縮図とも言える多様な人々が描かれています。
病棟内の人間関係や力関係は、そのまま外部社会の縮図となっています。権力を振りかざす医者、規則に縛られる患者、密告や裏切り、生き残るための保身など、ソビエト社会の病理が浮き彫りにされています。
秘密2：登場人物の多くは実在の人物をモデルにしている
ソルジェニーツィン自身も癌を患い、タシケントの癌病棟に入院していた経験があります。「癌病棟」には、作者自身の体験や観察に基づいた描写が多く見られます。
登場人物の多くも、作者が実際に病棟で出会った患者や医者たちをモデルにしています。例えば、主人公の一人であるコストグロトフは、作者自身の分身ともいえる存在です。
このように、「癌病棟」は、フィクションでありながら、作者の実体験と社会に対する鋭い観察眼に裏打ちされたリアリティを持っています。
秘密3：検閲を潜り抜けるための寓意に満ちている
「癌病棟」は、単なる医療小説ではなく、ソビエト体制への痛烈な告発の書でもあります。スターリン主義による恐怖政治、全体主義社会の息苦しさ、人間の尊厳の喪失など、当時のソ連社会が抱える問題点が、癌というメタファーを通して描かれています。
直接的な政治批判を避けるため、作者は寓意や象徴を駆使しています。癌は、ソビエト体制そのものを象徴しており、病棟は全体主義国家に支配された閉鎖的な社会を象徴しています。
「癌病棟」は、ソビエト連邦で発禁処分となりましたが、西欧諸国で出版されると大きな反響を呼び、ソルジェニーツィンはノーベル文学賞を受賞することになります。