## プラトンの「パイドン」とアートとの関係
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「パイドン」における模倣の概念
「パイドン」は、ソクラテスの最後の日の様子を描いた対話篇であり、魂の不死やイデア論などが主要なテーマとして扱われています。アートに関する直接的な言及は少ないものの、ソクラテスが展開する議論の中には、アートと深く関わる重要な概念が登場します。その一つが「模倣(ミメーシス)」です。
ソクラテスは、「パイドン」の中で、感覚によって捉えられるこの世の事物はいずれも、真の実在であるイデアの不完全な「模倣」に過ぎないと主張します。例えば、美しい絵画や彫刻は、美のイデアの模倣であり、それ自体は真の美を持つものではありません。
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アートの二重の模倣性
この考え方をアートに当てはめると、絵画や彫刻といった視覚芸術は、現実世界の事物という、すでにイデアの模倣であるものを、さらに模倣していることになります。つまり、アートはイデアから二重に離れた存在であり、真実から遠いものと見なされます。
「パイドン」では、この模倣という概念を通して、ソクラテスは感覚的な体験やそれらに根ざした知識の不完全さを強調し、真の知恵を求める哲学の重要性を説いています。
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「パイドン」におけるアートの評価
「パイドン」におけるアートに対する評価は、必ずしも一義的に低いわけではありません。ソクラテスは、詩人や芸術家が神的な霊感によって作品を生み出すという伝統的な見解を認めつつも、彼らが自身の創作物の真の意味を理解しているとは限らないと指摘します。
つまり、アートはそれ自体に真実を含むものではないものの、哲学的な考察の対象となることで、真実への導きとなり得る可能性を秘めていると言えるでしょう。