## フッサールのヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学とアートとの関係
フッサールの「ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学」におけるアートの位置づけ
フッサールの主著である「ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学」（1936年）において、アートは主題として直接的に扱われていません。この著作は、第一次世界大戦後のヨーロッパにおける学問の crisis （危機）を、理性主義の自己崩壊として捉え、その根源を
a) ギリシャ哲学に由来する客観主義的な理性
b) キリスト教的な愛の精神
という西洋文明を支えてきた二つの根本理念の分離に見て取ります。そして、この危機を克服するために、あらゆる偏見を捨て去り、「事物そのもの」へと立ち返ることを目指す「超越論的現象学」を提唱します。
アートと「生活世界の復興」
フッサール自身はアートについて体系的に論じていませんが、「生活世界」概念と関連づけて考察することができます。フッサールは、科学主義の隆盛によって、我々が日常的に生きている「生活世界」、つまり、主観的な意味や価値観によって成り立つ世界が無視されていることを批判します。そして、超越論的現象学を通じて、この忘れられた生活世界を回復することの重要性を訴えます。
アートは、科学のように客観的な法則や事実を追求するのではなく、人間の主観的な経験や感情、想像力を表現するものです。この点において、アートはフッサールの言う「生活世界」と深く関わっていると言えます。
現象学とアートの共通点
フッサールの現象学とアートの間には、いくつかの共通点を見出すことができます。
* **「エポケー（判断中止）」と「異化効果」**
現象学において重要な概念である「エポケー」は、既成概念や先入観を括弧に入れ、対象をありのままに見ることを意味します。これは、芸術作品が日常的な見方を転換させ、新鮮な驚きを与える「異化効果」と共通する部分があります。
* **「本質直観」と「表現」**
現象学は、「本質直観」を通じて、個別の事物の背後にある普遍的な本質を捉えようとします。アートにおいても、具体的な形象を通して、普遍的な人間の感情や状況を表現することが目指されます。
フッサールとアートの関係をめぐる解釈
以上のように、フッサール自身はアートについて体系的に論じていませんが、「生活世界」概念や現象学の方法論との関連から、その重要性を読み解くことができます。