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イシグロの『遠い山なみの光』とアートとの関係

## イシグロの『遠い山なみの光』とアートとの関係

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絵画と記憶、そして真実の曖昧さ

『遠い山なみの光』では、絵画が主要なテーマとして扱われているわけではありません。しかし、作中で絵画は重要な役割を果たしており、特に主人公悦子の記憶と真実の曖昧さというテーマと深く結びついています。

物語の冒頭、悦子は娘のニキから、亡くなったもう一人の娘ケイコの描いた絵について尋ねられます。ケイコが描いたというその絵は、悦子の記憶にはなく、存在自体が疑わしいものとして示されます。この出来事は、読者に悦子の記憶の曖昧さを印象付けると同時に、過去の出来事に対する解釈が変化していく可能性を示唆しています。

また、作中では具体的な絵画の描写は多くありませんが、風景描写を通して、まるで絵画を観ているかのような印象を読者に与えています。特に、タイトルにもなっている「遠い山なみの光」は、霞がかかったような美しさで描かれ、過去への郷愁と喪失感を象徴するものとして機能しています。

このように、『遠い山なみの光』において、絵画は直接的に描かれるわけではありませんが、記憶、真実、喪失といったテーマと密接に関係し、物語に深みを与えています。読者は、絵画というフィルターを通して、主人公の心情や過去の出来事の解釈の曖昧さを体感することになります。

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