## マルクーゼのエロス的文明に関連する歴史上の事件
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抑圧と解放のサイクル:古代ギリシャからキリスト教へ
マルクーゼは、古代ギリシャにおいて、人間と自然、そして人間と人間の間に、自由で調和的な関係が存在していたと考えていました。 この時代は、芸術、哲学、そして性愛において、表現の自由と自己実現が重視され、マルクーゼが「遊戯的エロス」と呼ぶ、生のあらゆる側面における喜びと創造性を肯定する精神が息づいていたのです。
しかし、この自由で解放的な時代は、キリスト教の台頭と共に終焉を迎えます。キリスト教は、禁欲主義、罪の意識、そして来世への希望を説き、現世における快楽を否定する価値観を広めました。 マルクーゼは、この過程を「現実原理」の強化として捉え、抑圧的な社会体制の構築と結びつけています。 人間は、労働と規律によって支配され、自由な表現や性愛は抑圧されるようになったのです。
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ルネサンスと宗教改革:抑圧されたエロスの再燃
中世の長く暗い時代を経て、ルネサンス期に入ると、古代ギリシャの文化や思想が再び脚光を浴びるようになります。 人間中心主義が台頭し、芸術や文学の分野では、人間の身体や感情がより自由に表現されるようになりました。 この時代は、マルクーゼのいう「抑圧されたエロス」が、再び解放へと向かう兆しを見せた時期と言えるでしょう。
宗教改革もまた、既存の権威に対する挑戦という意味で、解放的な側面を持っていました。 ルターは、禁欲主義を批判し、結婚と性愛を神の創造物として肯定しました。 しかし、宗教改革は、結果的に新しい形のプロテスタンティズムという抑圧を生み出すことになります。 労働倫理の強調は、資本主義の発展を促進し、人間を生産の道具として捉える新たな支配体制を築く基盤となったのです。
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資本主義と産業革命:エロスのさらなる抑圧と変容
資本主義の台頭と産業革命は、人間の生活を劇的に変化させました。 大量生産と消費のサイクルは、人間を労働力として搾取し、物質的な豊かさの追求は、真の幸福から人々を遠ざけました。 マルクーゼは、この状況を「過剰抑圧」と呼び、資本主義社会における人間の疎外を鋭く批判しています。
また、資本主義は、性愛を商品化し、消費の対象とすることで、その解放的な力を奪いました。 広告やメディアは、性的なイメージを氾濫させ、人々の欲望を操作することで、システムの維持を図っているのです。 マルクーゼは、このような状況を「反昇華」と呼び、真の解放とは程遠い状態であると指摘しています。