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ディドロの哲学断想に影響を与えた本

ディドロの哲学断想に影響を与えた本

スピノザ『倫理学』

ドゥニ・ディドロの『哲学断想』は、18世紀フランス啓蒙主義を代表する作品の一つであり、宗教、道徳、政治、そして人間の本質といった多岐にわたるテーマについて、鋭い洞察と大胆な批判精神が展開されています。この作品に大きな影響を与えた書物の一つが、17世紀オランダの哲学者バールーフ・デ・スピノザの主著『倫理学』です。

『倫理学』は、幾何学的な証明方法を用いて、神、自然、人間、そして自由と幸福といった哲学的テーマを体系的に論じた難解な作品として知られています。スピノザは、神と自然を同一視し、万物は神の属性の必然的な表現であるという汎神論を主張しました。また、人間の感情や行動もまた、この自然の秩序に支配されていると考えたのです。

ディドロは、スピノザの汎神論や決定論に強く惹かれ、その影響は『哲学断想』の随所に見て取ることができます。例えば、「盲人の手紙」において、ディドロは先天的に盲目であった人が視力を取り戻した場合、視覚と触覚の間に一致を見出すことができるのかという問題を提起します。これは、人間の感覚経験と外部世界の関係について考察することで、スピノザ的な視点から、認識論的な懐疑主義を探求していると言えるでしょう。

また、「ランベールとディドロの対話」において、ディドロは唯物論的な立場から、魂と肉体の関係を論じています。これは、スピノザが『倫理学』で展開した心身平行論、すなわち精神と身体は一つの同一のものの二つの側面に過ぎないという考え方に共鳴した結果であると考えられます。

ただし、ディドロはスピノザの思想をそのまま受け入れたわけではありません。『哲学断想』には、スピノザの決定論的な世界観に対する批判や、人間の自由意志の問題についての考察も見られます。ディドロは、スピノザの思想を批判的に継承しつつ、独自の唯物論的・無神論的な哲学体系を構築しようと試みたのであり、『哲学断想』はその格闘の軌跡を鮮やかに映し出していると言えるでしょう。

このように、『倫理学』は『哲学断想』に大きな影響を与えた作品であり、ディドロの思想を理解する上で欠かせない文献だと言えるでしょう.

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