エールリヒの法社会学基礎論に影響を与えた本
コンラート・フォン・イェーリング著「権利のための闘争」の影響
オイゲン・エールリヒの記念碑的著作「法社会学の基礎理論」は、法の社会学的アプローチの先駆的な研究として広く認められています。 法を単なる国家の命令や法典の条文としてではなく、社会生活の中で実際に機能する「生ける法」として捉えるエールリヒの視点の根底には、様々な思想的影響が見られます。 その中でも、特に重要な影響を与えた一冊として、ドイツの法学者コンラート・フォン・イェーリングの「権利のための闘争」(Der Kampf ums Recht)が挙げられます。
イェーリングは、本書において「権利は平和的に眠ってはいない」と主張し、権利は、その担い手が積極的に主張し、闘って獲得していくものであるという力強いメッセージを提示しました。 彼は、人間が生まれながらにして権利意識を持っているのではなく、社会生活の中で様々な利害対立に直面し、それを克服しようとする過程で権利意識を獲得していくのだと論じます。 そして、この権利意識に基づき、個人や集団が自らの権利を実現するために積極的に行動を起こすことが、法の発展、ひいては社会の進歩に不可欠であると説きました。
エールリヒの法社会学における中心概念である「生ける法」は、このイェーリングの思想と深く共鳴しています。 エールリヒは、法典や判例といった形式的な法規範のみならず、社会における慣習、道徳、商取引の慣行など、人々の行動を実際に規律しているあらゆる社会規範を「生ける法」と捉えました。 そして、この「生ける法」は、人々の社会生活の中で絶えず形成、変容していく動的なものであると主張しました。 これは、イェーリングが「権利のための闘争」で示した、権利意識に基づく人々の行動が法を形成していくという力学と通底する考え方だと言えるでしょう。
「権利のための闘争」は、法を静的な規則の体系として捉える伝統的な法学の枠組みを大きく超え、法のダイナミズムと社会との有機的な関連性を鮮やかに描き出しました。 このイェーリングの革新的な視点は、エールリヒの法社会学の基礎を築く上で重要な知的基盤を提供したと言えるでしょう。