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シジウィックの倫理学の方法から学ぶ時代性

シジウィックの倫理学の方法から学ぶ時代性

イギリス功利主義の完成と新たな課題

 ヘンリー・シジウィック(1838-1900)は、19世紀後半のイギリスを代表する哲学者の一人であり、その主著『倫理学の方法』(1874)は、イギリス功利主義の金字塔と評されています。彼は、ジェレミー・ベンサムやジョン・スチュアート・ミルといった先達の功利主義思想を批判的に継承し、より洗練された体系を構築しようと試みました。シジウィックは、倫理学の基礎を「自己 evident な道徳的信念」に求め、功利主義、道徳的直観主義、エゴイズムの三つの方法を比較検討することで、普遍的な倫理 principles を確立しようとしました。

常識の揺らぎと倫理学の危機

 シジウィックの倫理学は、当時のイギリス社会における「常識」の重要性を反映したものでした。19世紀のイギリスは、ヴィクトリア朝の安定と繁栄を享受する一方で、産業革命による社会構造の変化や、ダーウィンの進化論の影響など、大きな変革の時代でもありました。こうした時代の変化は、人々の価値観や道徳観に大きな影響を与え、従来の「常識」が揺らぎ始めていました。

 シジウィックは、こうした「常識の危機」ともいうべき状況を背景に、倫理学の重要性を改めて認識していました。彼は、人々がそれぞれの立場や利害を超えて、共通の道徳 principles を見出すことの必要性を訴えました。そのためにシジウィックは、当時支配的であった功利主義を批判的に検討し、その限界を克服しようと試みました。彼は、功利主義が「最大多数の最大幸福」を追求するあまり、個人の権利や正義の問題を軽視する傾向があると批判しました。

普遍性と時代性の狭間で

 シジウィックの倫理学は、普遍的な道徳 principles を確立しようとする試みであると同時に、19世紀後半のイギリスという特定の時代状況を反映したものでもありました。彼は、当時のイギリス社会における「常識」を重視し、それを基礎として倫理学を構築しようとしました。しかし、時代が変化するにつれて、「常識」もまた変化していくものです。シジウィックの倫理学は、普遍性と時代性の狭間で、今日においても重要な課題を提起しています。

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