## ロレンスのチャタレー夫人の恋人から学ぶ時代性
###
第一次世界大戦後の社会と性の抑圧
「チャタレー夫人の恋人」は、1928年に発表されたD.H.ローレンスの小説であり、第一次世界大戦後のイギリス社会を舞台に、上流階級の女性であるチャタレー夫人が、身分違いの狩猟番人であるメラーズとの肉体的な愛を通して、自己発見と解放を遂げていく物語です。
作品は発表当時、その性描写の過激さからわいせつとされ、発禁処分を受けるなど、大きなスキャンダルを巻き起こしました。しかし、このセンセーショナルな側面のみに目を奪われるのではなく、当時の社会背景と重ね合わせながら、作品が内包するテーマを読み解くことが重要です。
第一次世界大戦は、それまでの価値観を根底から揺るがし、人々に深い傷跡を残しました。特にイギリス社会は、戦勝国であったにもかかわらず、多くの犠牲を払い、経済的な疲弊にも見舞われました。
このような時代背景の中で、上流階級の人々は、伝統的な価値観や階級制度にしがみつき、社会の安定を保とうとしました。しかし、そうした保守的な風潮は、一方で人々の感情や欲望を抑圧し、息苦しい社会を生み出す要因ともなっていました。
###
女性の抑圧と解放への渇望
「チャタレー夫人の恋人」は、当時の社会における女性の抑圧と、そこから解放されようとする姿を鮮明に描いています。主人公であるコニーは、上流階級の出身で、裕福なクリフォードと結婚しますが、彼は戦争で負傷し、下半身不随となってしまいます。
コニーは、夫の介護という役割を押し付けられ、自身の欲求を押し殺して生きています。彼女は知的で感性豊かな女性ですが、当時の社会では、女性は家庭を守るべき存在とされ、自分の意志や欲望に従って生きることは許されませんでした。
そんな中、コニーは、粗野ではあるが生命力あふれるメラーズと出会い、彼との肉体的な愛を通して、抑圧されていた感情や欲望を解放していきます。メラーズとの関係は、コニーにとって、単なる不倫ではなく、自分自身を取り戻し、真の幸福を追求するための手段だったと言えるでしょう。
###
階級社会への批判と自然への回帰
「チャタレー夫人の恋人」は、当時のイギリス社会における階級格差の問題も浮き彫りにしています。コニーは上流階級の出身であり、メラーズは労働者階級の出身です。二人の間には、身分や教養の差があり、社会的には決して相容れない存在でした。
ローレンスは、二人の関係を通して、階級によって人々の交流が制限され、偏見や差別を生み出している社会の矛盾を批判しています。
さらに、ローレンスは、自然とのつながりを重視し、産業革命によって失われた人間本来の姿を取り戻そうとしました。メラーズは、自然の中で力強く生きる男性として描かれており、コニーは彼との愛を通して、自然の力強さや生命力に触れていきます。