## プーシキンのエウゲニー・オネーギンから学ぶ時代性
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19世紀ロシア社会の写し鏡
プーシキンの「エウゲニー・オネーギン」は、19世紀初頭のロシア社会を鮮やかに描き出した作品として知られています。退屈と倦怠感にさいなまれる主人公オネーギンを通して、当時の貴族社会の空虚さや矛盾、そして変革期を迎えたロシアの複雑な様相が浮かび上がってきます。
例えば、オネーギンは裕福な貴族の家に生まれ、何不自由ない生活を送っていながら、人生に退屈し、何にも情熱を燃やすことができません。これは、当時の貴族社会が物質的には豊かであった一方で、精神的な支えや目的意識を失っていたことを象徴していると言えるでしょう。当時の貴族たちは、フランス文化に傾倒し、自国の文化や伝統を見下す風潮がありました。オネーギンもまた、フランス語や文学に精通している一方、ロシアの農村やそこに住む人々に対しては冷淡な態度を取ります。
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当時の社会規範と個人の葛藤
物語の中で、オネーギンは親友レンズキーとの決闘で彼を殺してしまい、自らの軽率な行動を深く後悔します。この決闘は、当時の貴族社会における名誉や体面を重んじる価値観、そして、そうした社会規範に縛られた個人の葛藤を浮き彫りにしています。
また、オネーギンは、田舎娘タチヤーナからの熱烈な恋心を拒絶してしまいます。これは、当時の社会において、身分違いの結婚がいかに困難であったかを物語っています。オネーギン自身もタチヤーナに魅力を感じていながら、社会的な偏見や自身の立場を考慮し、彼女の申し出を受け入れることができませんでした。
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変革期のロシアの息吹
「エウゲニー・オネーギン」は、ナポレオン戦争後のロシア社会における変化の兆しも捉えています。農奴制の矛盾や西欧思想の影響など、新たな時代精神が芽生えつつあった時代背景が、登場人物たちの言動や人間関係を通して、繊細に描写されています。
例えば、レンズキーは、ドイツのロマン主義に影響を受けた若者として描かれ、オネーギンとは対照的に、理想や情熱を燃やしています。彼の存在は、当時のロシア社会に生まれつつあった新しい世代の価値観や、社会変革への期待を象徴していると言えるでしょう。