## シェイクスピアのシンベリンから学ぶ時代性
ジェンダーと権力
「シンベリン」は、古代ブリテンを舞台としながらも、エリザベス朝からジェームズ１世の時代にかけてのイングランド社会が色濃く反映された作品です。特に、ジェンダーと権力の関係性については、当時の社会通念や不安が複雑に織り込まれています。
劇中では、男性支配的な社会構造の中で、女性たちが自らの意志や主体性をどのように発揮するか、あるいは抑圧されるかが描かれます。国王の娘であるイノジェンは、父親の反対を押し切ってポステュマスと結婚しますが、その行動は男性たちの疑念や嫉妬を招き、悲劇へと繋がっていきます。彼女の貞節は、夫や他の男性によって試され、証明の対象とされることで、女性に対する所有欲や支配欲が浮き彫りになります。
結婚と貞節
「シンベリン」における結婚は、個人の愛情に基づくものというよりも、家父長制的な社会秩序を維持するための制度として描かれています。イノジェンとポステュマスの結婚は、国王の権威に挑戦するものとみなされ、彼らの愛は様々な試練にさらされます。
また、女性の貞節は、個人の道徳的な価値観を超えて、家名や名誉に直結するものとして重要視されています。イノジェンの貞操は、ポステュマスの賭けの対象となり、彼女の潔白が疑われることで、物語は大きく動き出します。これは、当時の社会における女性の立場や、貞節に対する価値観を反映していると言えるでしょう。
階級と社会秩序
身分違いの結婚に対する偏見や、貴族社会における権力闘争なども、「シンベリン」の重要なテーマとなっています。イノジェンは王女でありながら、身分の低いポステュマスを愛し、結婚することを選びます。これは、当時の社会では異例のこととして描かれ、彼らの結婚に対する周囲の反対や陰謀へと繋がっていきます。
また、王妃の息子であるクローテンは、王位継承への野心を抱き、イノジェンに執着することで、自らの欲望を満たそうとします。彼の行動は、貴族社会における権力欲や、社会秩序を乱すものとして描かれ、物語に波乱をもたらします。
外観と真実
「シンベリン」では、登場人物たちの誤解や欺瞞を通して、外見と真実のギャップが浮き彫りになります。イノジェンは、男性に変装することで、新たなアイデンティティを獲得し、自由に行動できるようになりますが、同時に、周囲の人々を欺くことになります。
また、ポステュマスは、イアキーモの策略によって、イノジェンの貞節を疑い、彼女を殺害するように命じてしまいます。彼は、目に見える証拠だけに基づいて判断を下した結果、愛する者を深く傷つけることになります。これらの出来事を通して、シェイクスピアは、人間の偏見や思い込みの危険性を描き出し、真実は複雑で捉えどころがないことを示唆していると言えるでしょう。