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アリストテレスの詩学を深く理解するための背景知識

## アリストテレスの詩学を深く理解するための背景知識

アリストテレスの生涯と哲学

アリストテレス(紀元前384年 – 紀元前322年)は、古代ギリシャの哲学者であり、プラトンの弟子として知られています。マケドニアのスタゲイラに生まれ、17歳でアテナイのプラトンのアカデメイアに入学し、約20年間プラトンのもとで学びました。プラトンの死後、アテナイを離れ、各地を遍歴した後、マケドニア王ピリッポス2世の王子アレクサンドロス(のちのアレクサンドロス大王)の家庭教師を務めました。紀元前335年、アテナイに戻り、リュケイオンと呼ばれる学園を創設し、研究と教育活動を行いました。アリストテレスは、論理学、形而上学、倫理学、政治学、自然科学、修辞学、詩学など、幅広い分野にわたって膨大な著作を残し、西洋思想に多大な影響を与えました。彼の哲学は、経験に基づく観察と論理的な思考を重視し、体系的かつ網羅的な知識の構築を目指したものでした。

古代ギリシャの演劇

アリストテレスの『詩学』は、主に悲劇を対象とした演劇論であり、古代ギリシャの演劇文化を理解することが重要です。古代ギリシャの演劇は、ディオニュソス神を祭る宗教的な儀式から発展したと考えられています。紀元前6世紀頃から、アテナイを中心に盛んになり、悲劇、喜劇、サテュロス劇の3つのジャンルが確立しました。悲劇は、神話や英雄伝説を題材とし、人間の運命や苦悩を描いたもので、アイスキュロス、ソフォクレス、エウリピデスが三大悲劇詩人として知られています。喜劇は、風刺や笑いを交えて社会や人間の滑稽さを描いたもので、アリストファネスが代表的な喜劇詩人です。サテュロス劇は、半人半獣のサテュロスが登場する滑稽な劇で、悲劇の上演後に上演されることが多かったようです。

古代ギリシャの演劇は、野外劇場で行われ、役者は仮面をつけ、歌や踊りを取り入れた演技を行いました。また、コロスと呼ばれる合唱隊が重要な役割を果たし、劇の進行を解説したり、登場人物の心情を歌ったりしました。これらの演劇は、単なる娯楽ではなく、市民にとって重要な教育や教養の場としての役割も担っていました。

プラトンのイデア論とミメーシス

アリストテレスの哲学は、師であるプラトンの影響を強く受けていますが、一方でプラトンとは異なる独自の思想も展開しています。プラトンのイデア論は、この世の事物には、その原型となるイデア(形相)が存在し、イデアこそが真の実在であるとするものです。プラトンは、芸術はイデアの模倣(ミメーシス)であり、現実世界の模倣である芸術はイデアからさらに遠ざかったものであるため、真実から遠いものとして評価しました。

アリストテレスもミメーシスという概念を用いますが、プラトンとは異なる解釈をしています。アリストテレスにとって、ミメーシスは単なる模倣ではなく、人間の本性に根ざした創造的な活動です。人間は、生まれつき模倣することを喜び、模倣を通して世界を認識し、学び、感情を表現します。芸術は、このミメーシスの能力を高度に発揮したものであり、人間にとって重要な意味を持つと考えました。

古代ギリシャの修辞学

アリストテレスは、『詩学』と並んで『弁論術』という修辞学に関する著作も残しています。修辞学は、説得のための技術を研究する学問であり、古代ギリシャでは政治や裁判など、様々な場面で重要な役割を果たしていました。アリストテレスは、『弁論術』において、ロゴス(論理)、パトス(感情)、エートス(人格)の三つの要素が説得において重要であると論じています。

『詩学』においても、悲劇の効果としてカタルシスを挙げ、観客の感情に訴えかけることの重要性を説いています。アリストテレスの修辞学の知識は、『詩学』を理解する上でも重要な背景知識となります。

アリストテレスの目的論

アリストテレスの哲学の特徴の一つに、目的論的な世界観があります。アリストテレスは、あらゆる事物には固有の目的や機能があると
考え、その目的を実現することがその事物の本質であるとしました。例えば、植物の目的は成長し、種子を作り、子孫を残すこと
であり、動物の目的は生命活動を維持し、繁殖することであると考えました。

この目的論的な考え方は、『詩学』においても重要な役割を果たしています。アリストテレスは、悲劇にも固有の目的や機能が
あると考え、その目的を達成するために悲劇は特定の構成要素や技法を持つべきであると論じています。

これらの背景知識を踏まえることで、アリストテレスの『詩学』をより深く理解することができます。

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