# シェイクスピアのジュリアス・シーザーを深く理解するための背景知識

古代ローマの共和政と政治体制

シェイクスピアの戯曲「ジュリアス・シーザー」を理解する上で、まず重要なのは古代ローマの政治体制、特に共和政についてです。ローマは紀元前５０９年に王政を廃止し、共和政に移行しました。共和政とは、王や皇帝のような単独の支配者ではなく、市民によって選ばれた代表者たちが政治を行う体制です。

ローマ共和政の重要な機関としては、元老院、民会、執政官などが挙げられます。元老院は、貴族階級であるパトリキ出身の議員たちで構成され、国家の重要事項について審議し、助言を行う機関でした。民会は、平民階級であるプレブスを含むローマ市民によって構成され、法律の制定や官職者の選出などを行いました。執政官は、国家の最高官職であり、元老院の決定を実行し、軍隊を指揮するなど、広範な権限を持つ２名によって務められました。

共和政ローマは、これらの機関が相互に牽制しあいながら政治を行うことで、権力の集中を防ぎ、市民の自由と権利を守ることを目指していました。しかし、実際には元老院と民会、パトリキとプレブスの間で対立が生じやすく、政治は不安定になりがちでした。

ジュリアス・シーザーの台頭とガリア戦争

ガイウス・ユリウス・カエサル、通称ジュリアス・シーザーは、紀元前１００年にパトリキの家に生まれました。優れた政治家、軍人であったシーザーは、民衆の支持を得て権力を拡大していきました。紀元前６０年には、ポンペイウス、クラッススとともに第一回三頭政治を結成し、ローマの実権を掌握します。

紀元前５８年から紀元前５０年にかけて、シーザーはガリア（現在のフランス、ベルギーなど）を征服するガリア戦争を指揮しました。この戦争での勝利により、シーザーは莫大な富と名声を得るとともに、強力な軍隊を手に入れました。ガリア戦争は、シーザーの軍事的天才を示すだけでなく、彼の権力欲と野心を象徴する出来事でもありました。

ポンペイウスとの対立と内戦

ガリア戦争後、シーザーはローマへの帰還を要求されますが、元老院はこれを拒否します。シーザーは軍隊を率いてルビコン川を渡り、ローマに進軍しました。これが紀元前４９年に始まったローマ内戦のきっかけです。

内戦は、シーザーと、元老院派の代表格であったポンペイウスとの戦いでした。シーザーはファルサルスの戦いでポンペイウスを破り、エジプトに逃れたポンペイウスを殺害しました。その後も各地で元老院派との戦いを続け、紀元前４５年にはローマの唯一の支配者となりました。

シーザーの独裁と暗殺

内戦に勝利したシーザーは、終身独裁官に就任し、事実上の皇帝となりました。彼は様々な改革を行い、ローマの政治、社会、経済に大きな影響を与えました。しかし、シーザーの独裁的な政治は、共和政の伝統を重んじる元老院議員たちの反発を招きました。

紀元前４４年３月１５日、シーザーは元老院議場で、ブルータス、カッシウスらを中心とする元老院議員たちに暗殺されました。シーザーの暗殺は、共和政を復活させようとする元老院派の抵抗でしたが、結果的にはローマの内乱をさらに激化させることになりました。

ローマの宗教と文化

古代ローマの人々は、多神教を信仰していました。ユピテル、ジュノー、マールスなどの神々が崇拝され、神々への祈りと儀式はローマ人の生活に深く根付いていました。また、ローマ人はギリシャ文化の影響を受け、哲学、文学、芸術など様々な分野で独自の文化を築き上げていました。

占星術や予言などもローマ社会で重要な役割を果たしていました。劇中でも、不吉な前兆や予言がシーザーの運命を暗示する場面が登場します。これらの宗教や文化的な要素は、登場人物たちの行動や心理を理解する上で重要な手がかりとなります。

シェイクスピアの時代とエリザベス朝イングランド

シェイクスピアが「ジュリアス・シーザー」を執筆した１６世紀末のイングランドは、エリザベス１世の統治下で、政治的にも文化的にも安定した時代でした。しかし、エリザベス女王の後継者問題など、将来に対する不安も存在していました。

シェイクスピアは、古代ローマの内乱とエリザベス朝イングランドの状況を重ね合わせ、権力闘争、政治的陰謀、指導者の役割、人間の野心と道徳など、普遍的なテーマを劇中で探求しています。

プルタルコスの「対比列伝」

シェイクスピアは、「ジュリアス・シーザー」の主要な情報源として、ギリシャの歴史家プルタルコスが著した「対比列伝」を用いました。プルタルコスの「対比列伝」は、古代ギリシャとローマの著名な人物の伝記を対比させたもので、シーザー、ブルータス、アントニウスなどの生涯が詳しく描かれています。

シェイクスピアは、プルタルコスの記述を基に、登場人物たちの性格や人間関係、歴史的事件などを劇中で巧みに再現しています。プルタルコスの「対比列伝」を読むことで、シェイクスピアの創作意図や登場人物の解釈をより深く理解することができます。

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読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。