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心理学×シェイクスピア:リチャード二世

リチャード二世: 失墜する王、心の科学が照らし出す王権と人間の脆さ

『リチャード二世』は、イングランド王リチャード二世が、その驕慢さと失政によって、従兄弟であるヘンリー・ボリングブルック(後のヘンリー四世)に王位を奪われ、幽閉され、そして、最期を迎えるまでの過程を描いた、シェイクスピアの史劇です。

この作品は、王権神聖さと人間の弱さ権力儚さ、そして、運命残酷さといった、重いテーマを、リチャード二世の悲劇を通して描き出しています。

今回は、現代心理学の分析ツールを手に、登場人物たちの言動や心理を深く探求することで、『リチャード二世』という歴史劇に隠された人間ドラマを、新たな視点から読み解いていきましょう。

1. リチャード二世: ナルシシズムと自己愛的怒り

リチャード二世は、イングランド王として生まれ、幼い頃から、王権の神聖さと、自らの特権的な立場を当然のものとして受け入れてきました。

ナルシシズムと自己愛

彼の性格は、ナルシシズム(自己愛が過剰で、他者への共感性に欠ける傾向)の特徴を強く示しています。

彼は、自分自身を、神に選ばれた特別な存在だと信じ、王権は、神から与えられた絶対的な権利だと考えています。そのため、彼は、周囲の人々を見下し、彼らの意見に耳を傾けようとしません。

彼の有名な台詞、「悲しみは、王たる余には似合わぬ」は、まさに彼のナルシシズムを象徴する言葉と言えるでしょう。彼は、王である自分が、弱さや悲しみといった感情を表すことは、王権の尊厳を傷つけると考えているのです。

現実認識の歪みと「自己愛的怒り」

しかし、彼の自己中心的な世界観は、現実の政治状況とは乖離しており、彼の失政は、貴族や民衆の不満を招き、ボリングブルックの反乱を招く要因となります。

ボリングブルックに権力を奪われ、王位を追われたリチャードは、激しい怒り絶望に苦しみます。

彼の怒りは、「自己愛的怒り」と呼ばれる、ナルシシズムの人が経験する、特徴的な怒りの表れです。 自己愛的怒りは、自分の自尊心や優越感、重要性が脅かされたと感じた時に、爆発的に発生します。

現代社会におけるリチャード二世

現代社会に置き換えると、リチャード二世は、例えば、二代目社長として、先代の築いた会社を継いだものの、時代の変化に対応できず、会社を衰退させてしまう経営者かもしれません。

彼は、過去の成功体験や、自らの特権的な立場に固執し、社員の声に耳を傾けず、時代遅れの経営を続けてしまうでしょう。 そして、会社の業績が悪化しても、自分の責任を認めようとせず、部下や外部環境のせいにするかもしれません。

2. ヘンリー・ボリングブルック(後のヘンリー四世): 冷静な野心家、「マキャベリズム」の影

ヘンリー・ボリングブルックは、リチャード二世の従兄弟であり、彼から王位を奪い、ヘンリー四世として即位する人物です。

彼は、冷静沈着野心家であり、自らの目的を達成するために、合理的行動します。

権力奪取への戦略

彼は、リチャード二世の失政に乗じて、巧みに民衆の支持を集め、王位簒奪を成し遂げます。

彼の行動は、「マキャベリズム」という性格特性と関連づけて解釈できます。

マキャベリズムとは、目的達成のためには手段を選ばず、他人を利用することに抵抗がない、冷酷で計算高い性格特性のことです。

ボリングブルックは、王位獲得という明確な目標を持ち、そのために、周囲の状況や人々の心理を冷静に分析し、戦略的に行動します。

彼は、リチャード二世の失政を批判することで、貴族や民衆の不満を煽り、自らの支持基盤を固めていきます。

現代社会におけるボリングブルック

現代社会に置き換えると、ボリングブルックは、例えば、既存のビジネスモデルを破壊し、新たな市場を創出する、革新的な起業家かもしれません。

彼は、時代の変化を鋭く察知し、既存の権威やルールに challenge(挑戦)することで、成功を掴むでしょう。

道徳的葛藤

しかし、彼の行動は、倫理的問題も孕んでいます。

彼は、王位を奪うために、暴力脅迫といった手段を用い、自らの野心を達成した後は、かつての協力者たちを排除することも厭いません。

彼の行動は、権力というものが、いかに人間の道徳心を歪ませ、人間関係を破壊する可能性があるかを示唆しています。

3. ジョン・オブ・ゴーント: 揺るぎない信念と老練な政治家

ジョン・オブ・ゴーントは、ヘンリー・ボリングブルックの父であり、リチャード二世の叔父です。彼は、老練な政治家で、揺るぎない信念愛国心を持つ人物です。

死と自己受容

彼は、病に倒れ、死を目前にしながらも、イングランドの未来を憂い、リチャード二世に、厳しい諫言(忠告)をします。

彼の言動は、「死の受容」という心理学的なプロセスと関連づけて解釈できます。

死の受容とは、自らの死という避けられない運命を受け入れ、心の準備をすることです。

ジョン・オブ・ゴーントは、死を恐れず、むしろ、残された時間を、自らの信念を貫き、国のために尽くすことに使おうとしています。

現代社会におけるジョン・オブ・ゴーント

現代社会に置き換えると、ジョン・オブ・ゴーントは、例えば、長年、社会貢献活動に取り組んできた、尊敬を集める社会活動家かもしれません。

彼は、自らの経験と wisdom(知恵)を活かし、若い世代に、より良い社会を築くためのメッセージを伝え、彼らを** inspire (鼓舞)**するでしょう。

4. ヨーク公: 忠誠心と葛藤、「家族」と「国家」の間で

ヨーク公は、リチャード二世の叔父であり、ボリングブルックの叔父でもあります。

彼は、王とボリングブルックの両方親族関係があり、その板挟みの中で、苦悩します。

忠誠心のジレンマ

彼の行動は、「忠誠心」の 葛藤(conflicts of loyalty )という心理学的な問題を示しています。

彼は、王であるリチャード二世に対して、忠誠を誓っていますが、同時に、ボリングブルックの行動も、イングランドにとって必要だと考えています。

彼は、家族への愛情と、国家への loyalty (忠誠心)の間で、苦しみ、どちらの側につくべきか、迷うのです。

現代社会におけるヨーク公

現代社会に置き換えると、ヨーク公は、例えば、会社と家族の間で板挟みになる、中間管理職の姿かもしれません。

彼は、 会社の方針に従わなければならない立場でありながら、同時に、部下や家族のことも守りたいと考えています。

倫理的なジレンマ

彼の葛藤は、私たちに、「倫理的ジレンマ」という問題を投げかけています。

倫理的なジレンマとは、複数の価値観が対立し、どれを優先すべきか迷う状況のことです。

ヨーク公は、最終的に、王への忠誠を選びますが、その選択は、彼に更なる苦悩をもたらすことになります。

5. ヨーク公夫人: 家族愛と悲嘆

ヨーク公夫人は、ヨーク公の妻であり、息子であるオーマール公が、ボリングブルックの側についたことに苦悩します。

母親としての愛情

彼女の行動は、「母親」としての愛情悲しみによって、特徴づけられます。

喪失と悲嘆

彼女は、息子が family(家族)を裏切り、敵対する陣営に加わったことに、深い 失望 を感じています。

彼女の悲しみは、単なる息子の裏切りに対する怒りではなく、息子を失った母親の喪失感、そして、家族のが壊れてしまったことへの悲嘆の感情と言えるでしょう。

現代社会におけるヨーク公夫人

現代社会に置き換えると、ヨーク公夫人は、例えば、非行に走った息子を心配する母親の姿かもしれません。

彼女は、息子が更生してくれることを願いながら、同時に、彼が犯罪を犯してしまうかもしれないという不安に怯え、苦悩するでしょう。

「リチャード二世」: 心理学的考察が深める人間ドラマ

『リチャード二世』は、王権の失墜と人間の心の脆さを描いた作品です。 登場人物たちは、権力、野心、愛情、そして、忠誠心といった、様々な価値観の中で、葛藤し、苦悩します。

私たちは、現代心理学の知見を手がかりに、彼らの行動や心理を分析することで、この歴史劇に描かれた人間ドラマを、より深く理解することができます。

そして、彼らの物語は、私たち自身の人生においても、権力や地位、名誉といったものに固執することなく、自分自身にとって本当に大切なものは何か、そして、どのような価値観に基づいて生きていくべきかを、問いかけていると言えるでしょう。

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読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。

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