フロイトのヒステリー研究の対極
ミシェル・フーコー「狂気の歴史」
フロイトのヒステリー研究が、主に19世紀末のウィーンという限られた社会文化的背景における、女性患者に対する臨床経験と、彼自身の精神分析理論に基づいて構築されたものであるのに対し、ミシェル・フーコーの「狂気の歴史」は、古代ギリシャから近代ヨーロッパに至るまでの長い歴史の中で、「狂気」という概念がどのように形成され、社会の中でどのような位置づけを与えられてきたのかを、膨大な文献資料の分析を通じて明らかにしようとするものです。
フーコーは、「狂気」を時代を超越した普遍的な病ではなく、それぞれの時代や社会が作り出した「他者」として捉えます。彼は、中世における「狂気」は社会の中に一定の居場所を与えられていたのに対し、近代に入ると理性と非理性という二分法によって排除され、監禁の対象となっていった過程を詳細に描き出します。
「狂気の歴史」は、フロイトのように「狂気」を精神医学的な病理として分析するのではなく、権力や制度、言説といった社会構造との関連において考察することで、「狂気」に対する従来の見方を根本から覆し、大きな影響を与えました。