## ハイデガーの存在と時間の対極
ハイデガー『存在と時間』の概要
まず、対極にあるものを理解するために、『存在と時間』の内容を簡単に確認します。ハイデガーはこの著作で、西洋哲学史における「存在」の問いが忘れられてきたと批判し、改めて「人間存在」を起点に「存在」そのものを問うことを試みました。彼は、人間存在を「現存在」（Dasein）と独自の用語で規定し、現存在が「世界-内-存在」として「時間性」を本質としてもつことを明らかにしようとしました。
対極に位置する可能性のある思想 – 科学的実証主義 –
ハイデガーの思想とは対照的なものとして、**科学的実証主義**が挙げられます。これは、経験的に検証可能なもののみを知識の源泉とみなす立場です。論理実証主義やウィーン学派などが代表例として挙げられます。
* **論理実証主義**: 1920年代にウィーン学派から発展した哲学の一派で、形而上学や倫理学などの命題は、経験的に検証可能ではないため、無意味であると主張しました。科学的な言説のみが意味を持つと考え、論理学を用いて言語を分析することを重視しました。
* **ウィーン学派**: 論理実証主義の中心的なグループで、数学、論理学、物理学などの科学的知識の基礎を明確化することを目指しました。代表的な人物には、モーリッツ・シュリック、ルドルフ・カルナップ、オットー・ノイラートなどがいます。
これらの立場は、ハイデガーが重視した「存在」や「時間性」といった形而上学的な概念を、科学的に検証できないものとして退ける傾向があります。
対極に位置する可能性のある思想 – 構造主義 –
もう一つの対極となり得る思想として、**構造主義**が考えられます。構造主義は、個々の現象の背後に潜む普遍的な構造を明らかにしようとする立場です。言語学者のフェルディナン・ド・ソシュールの影響を受け、20世紀後半に人文科学を中心に広まりました。
* **構造主義言語学**: ソシュールによって提唱された言語学の理論で、言語を記号の体系として捉え、個々の記号の意味は体系内部での関係性によって決定されると考えます。
* **レヴィ＝ストロース**: フランスの人類学者で、構造主義を人類学に応用し、親族関係や神話などの背後にある普遍的な構造を分析しました。
構造主義は、ハイデガーが重視した人間の主体性や歴史性を軽視する傾向があり、人間の思考や行動は、言語や社会構造といった要素によって規定されると考えます。
補足
上記以外にも、『存在と時間』と対比可能な思想は多数存在します。重要なのは、それぞれの思想がどのような前提や方法論に基づいており、『存在と時間』とどのような点で対照的なのかを具体的に比較検討することです。