## クーンの科学革命の構造の対極
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科学史における漸進主義:累積的な進歩の物語
トーマス・クーンの『科学革命の構造』(1962年)は、科学史の見方を一変させました。クーンは、科学が paradigmatic shift と呼ばれる、断続的な革命によって進歩するという考えを提唱しました。これは、科学が常に線形かつ累積的に進歩するという、それまでの一般的な見方に異議を唱えるものでした。
クーンの主張に真っ向から対立する立場として、「漸進主義」と呼ばれる科学史観があります。漸進主義は、科学的知識が時間をかけて徐々に、そして累積的に発展していくプロセスであると主張します。この見方によれば、科学革命は確かに存在しますが、それは既存の知識体系を完全に覆すものではなく、むしろ修正し、拡張していくものと捉えられます。
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漸進主義を体現する歴史的名著:
クーンの著作以前、科学史における支配的な見方は漸進主義でした。この立場を代表する歴史的名著としては、以下のようなものが挙げられます。
* **ウィリアム・ヒューウェル『帰納的科学の歴史』(1837年)**:ヒューウェルは、科学は観察と実験に基づく帰納的なプロセスによって進歩すると主張しました。彼は、科学の歴史を、事実の積み重ねと、それらを説明する理論の精緻化の過程として描きました。
* **ジョージ・サートン『科学史入門』(1927-1948年)**:サートンは、膨大な資料を駆使して古代から現代に至るまでの科学の歴史を網羅的に記述しました。彼は、科学を人類の共通遺産とみなし、その進歩を文明の発展と不可分なものとして捉えました。
これらの著作は、科学が革命的な変化ではなく、漸進的な進歩によって発展してきたという見方を提示しており、クーンの主張とは対照的な歴史観を示しています。
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漸進主義とクーン:対立と共存
クーンの登場は、科学史における漸進主義の優位性を揺るがし、科学の進歩に対するより複雑な見方を提示しました。しかし、だからといって漸進主義が完全に否定されたわけではありません。
今日では、多くの科学史家が、科学の進歩には革命と漸進の両方の側面があると認識しています。科学は、時に劇的な変化を遂げることがありますが、同時に、日々の研究活動の積み重ねによって着実に進歩していく側面も持ち合わせています。
クーンの著作は、科学史における重要な転換点となりましたが、漸進主義は依然として重要な視点を提供しており、両者を対比しながら考察することで、科学の進歩に対するより深い理解を得ることが可能となります.