ヘーゲルの法の哲学の関連著作
アリストテレス『政治学』
古代ギリシャの哲学者アリストテレスの主著の一つである『政治学』は、国家、法、正義、そして人間の幸福との関係について包括的に論じた書物です。アリストテレスは、人間は本質的に政治的な動物であり、共同体の中でこそ徳を追求し、幸福を実現できると考えました。
『政治学』は、ヘーゲルが『法の哲学』で展開する多くのテーマに影響を与えています。例えば、アリストテレスは、法は個人の自由を保障するだけでなく、市民としての徳を涵養するものでなければならないと主張しました。これは、ヘーゲルが「倫理的生活」と呼ぶ概念、すなわち、個人の自由と共同体の倫理が調和した状態と深く共鳴しています。
また、アリストテレスは、国家には様々な形態があり、それぞれの形態は独自の利点と欠点を持つと分析しました。この国家形態論は、ヘーゲルが歴史哲学の中で展開する、国家が発展段階に応じて異なる形態をとるという考え方に影響を与えたと考えられます。
ホッブズ『リヴァイアサン』
イギリスの哲学者トーマス・ホッブズの主著『リヴァイアサン』は、自然状態、社会契約、絶対主権といった概念を用いて、近代国家の起源と本質を論じた画期的な書物です。ホッブズは、自然状態における人間は、欲望と自己保存のみに突き動かされ、絶え間ない闘争状態にあると想定しました。
この「万人の万人に対する闘争」状態から脱するために、人々は互いに契約を結び、自らの権利の一部を絶対的な権力を持つ主権者に譲渡します。こうして成立したのが国家であり、主権者の権力によってのみ、社会の秩序と安全が保障されるとホッブズは主張しました。
ヘーゲルは、ホッブズの社会契約論を批判的に継承しています。ヘーゲルもまた、国家は個人の権利を保障する上で重要な役割を果たすと考えていましたが、ホッブズのように絶対的な権力を持つ主権者を認めることには反対しました。ヘーゲルは、国家は個人の自由を制限するだけでなく、同時にその自由を実現するものでなければならないと主張しました。
ルソー『社会契約論』
フランス啓蒙期の思想家ジャン=ジャック・ルソーの主著『社会契約論』は、人民主権、一般意志、自由と平等といった概念を提唱し、フランス革命をはじめとする近代の民主主義運動に多大な影響を与えました。ルソーは、人間は本来自由で平等な存在であるにもかかわらず、社会の不平等や抑圧によってその本性を歪められていると主張しました。
真の自由と平等を実現するためには、人々が自らの意志に基づいて社会契約を結び、一般意志に従って統治される政治体制を樹立しなければならないとルソーは考えました。ルソーにとって、一般意志とは、個々の成員の私的利益を超えた、共同体全体にとって最善の意志を意味します。
ヘーゲルは、ルソーの人民主権論や一般意志の概念に共感しつつも、その抽象性や非現実性を批判しました。ヘーゲルは、ルソーが想定するような抽象的な個人や一般意志は現実には存在せず、真の自由と平等は、歴史的に形成された具体的な倫理的生活の中でこそ実現されると考えました。