プルードンの経済的諸矛盾の体系の周辺
プルードンの生い立ちと著作活動
ピエール・ジョゼフ・プルードン(Pierre-Joseph Proudhon, 1809-1865)は、フランスの社会主義思想家、経済学者、政治活動家です。彼は、ブザンソン近郊の貧しい職人家庭に生まれ、幼少期から労働の厳しさを経験しました。印刷工として働きながら独学で哲学や経済学を学び、1840年に処女作『財産とは何か』を発表しました。この著作の中で、彼は有名な「財産とは盗みである」という言葉とともに、私的所有を批判し、大きな反響を呼びました。
プルードンはその後も活発な著作活動を続け、『経済的諸矛盾の体系、あるいは労働組織における貧困の哲学』(1846年)、『革命の創始と終わりに際して人民に宛てた政治的講話』(1848年)、『革命とクーデターについて』(1851年)、『戦いと平和』(1861年)などの著作を発表しました。これらの著作の中で、プルードンは、資本主義社会における経済的不平等や階級対立を批判し、相互主義(ミューチュアリズム)と呼ばれる独自の社会主義思想を展開しました。
経済的諸矛盾の体系の概要
『経済的諸矛盾の体系、あるいは労働組織における貧困の哲学』は、プルードンの主著とされ、彼の経済思想の集大成とも言える著作です。この著作でプルードンは、ヘーゲル弁証法の影響を受けながら、当時の経済学の矛盾点を鋭く指摘し、独自の経済理論を展開しました。
プルードンは、価値や価格、労働、資本、分配、競争、独占、信用、租税など、経済学の主要なテーマについて論じ、それらに内在する矛盾を明らかにしようと試みました。例えば、彼は、労働価値説を採用しながらも、古典派経済学の限界を指摘し、労働時間だけでは価格を完全に説明できないことを主張しました。また、彼は、資本主義社会における競争は、必ずしも効率性や進歩をもたらすものではなく、むしろ不平等や貧困を生み出す原因になると批判しました。
プルードンの経済思想の特徴
プルードンの経済思想は、マルクス主義とは異なる独自の社会主義思想として位置づけられます。彼は、マルクスの階級闘争論や国家による革命には反対し、相互扶助と自由契約に基づく社会の建設を目指しました。彼の思想は、アナーキズムや協同組合運動に大きな影響を与えました。
プルードンの主要な主張は以下の通りです。
* **私的所有の批判:** プルードンは、「財産とは盗みである」という有名な言葉で知られるように、土地や生産手段の私的所有を批判しました。彼は、私的所有が、労働者からの搾取や経済的不平等の根源であると考えたのです。
* **相互主義(ミューチュアリズム):** プルードンは、国家による統制ではなく、個人の自由と平等に基づく社会の建設を目指しました。彼は、労働者が生産手段を共同所有し、相互扶助と自由契約によって経済活動を営むことを提案しました。
* **銀行改革:** プルードンは、金利に基づく金融システムを批判し、労働者が低金利で融資を受けられる銀行の設立を主張しました。彼は、この銀行が、労働者による生産協同組合の設立を促進し、資本主義に代わる新たな経済システムを構築すると考えました。
プルードンの思想の影響
プルードンの思想は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパを中心に大きな影響を与えました。特に、フランスやスペインのアナーキストたちは、プルードンの思想を継承し、国家や資本主義に反対する運動を展開しました。
また、プルードンの相互主義は、協同組合運動にも影響を与えました。労働者が生産手段を共同所有し、民主的な運営を行う協同組合は、プルードンの理想とする社会像に近いものでした。