## ニーチェの道徳の系譜を読む
ニーチェの主著の一つ
『道徳の系譜』は、1887年にフリードリヒ・ニーチェによって出版された著作です。本書は、当時のヨーロッパ社会に蔓延していたキリスト教的道徳観を批判的に分析し、その起源と本質を歴史的・心理学的観点から解明しようと試みたものです。
三部構成とその内容
全3編からなる本書は、それぞれ独立したテーマを扱いながら、相互に関連し合いながらニーチェの道徳批判を展開していきます。
* **第一編「善悪の彼岸にて」**
従来の道徳哲学、特にイギリス経験主義の功利主義的な道徳観を批判し、「善」と「悪」の価値観がどのように生まれたのかを考察します。ニーチェは、古代ギリシャにおける「主人道徳」と「奴隷道徳」の対比を軸に、現代社会における道徳観の起源を辿り、キリスト教によって広められた「奴隷道徳」が西洋文明を衰退させていると主張します。
* **第二編「「罪責」意識、あるいは「悪しき良心」の系譜」**
人間がどのようにして「罪責感」を持つようになったのかを、歴史的・心理学的に分析します。ニーチェは、古代社会における残酷な刑罰制度や、キリスト教における原罪の概念などが、人間の心に「内面化された残虐性」を植え付け、それが「悪しき良心」を生み出したと主張します。
* **第三編「禁欲主義的理想とは何か」**
当時のヨーロッパ社会に広まっていた禁欲主義的な理想を批判的に分析し、その背後にある心理的なメカニズムを解明しようと試みます。ニーチェは、禁欲主義は生の否定であり、人間本来の生命力を弱体化させるものだと批判します。また、禁欲主義の背後には、虚無主義や権力への意志が潜んでいると指摘します。
難解な文章と解釈の多様性
ニーチェの哲学は、その難解な文章と比喩的な表現、そして既存の価値観を覆すラディカルな思想によって、多くの読者を魅了すると同時に、解釈の多様性をもたらしてきました。本書もまた、出版以来、様々な解釈がなされており、現代の思想界にも大きな影響を与え続けています。