トルストイの戦争と平和のテクスト
登場人物描写
トルストイは、登場人物の心理描写に長けており、「戦争と平和」では、ナポレオン戦争という激動の時代を背景に、ロシア貴族社会の人々の生活、愛、苦悩、成長を、登場人物の内面を深く掘り下げることで描いています。 例えば、ピエール・ベズーホフは、当初は理想主義的な青年として描かれますが、結婚生活の破綻や戦争体験を通して、精神的に大きく成長していく様子が、彼の内面独白や行動を通して克明に描かれています。また、アンドレイ公爵は、戦争での栄光を夢見る一方で、人生の意味や愛について深く思い悩む姿が印象的です。
歴史観の提示
「戦争と平和」では、歴史における個人の役割や歴史の必然性といったテーマが、物語を通じて提示されています。トルストイは、歴史は英雄や指導者によってではなく、民衆の力によって動くと考えていました。ナポレオン戦争におけるロシア軍の勝利も、将軍たちの戦略ではなく、ロシア国民全体の祖国防衛の意志によるものとして描かれています。
写実的な描写
トルストイは、戦場や当時のロシアの風俗、習慣などを詳細に描写することで、読者に強いリアリティを与えています。アウステルリッツの戦いにおける兵士たちの混乱や恐怖、ロシア貴族社会の舞踏会の様子などは、読者がまるでその場に居合わせるかのような臨場感を持って読むことができます。
多様な語り口
「戦争と平和」では、全知的な語り口だけでなく、登場人物の視点から語られる場面も多く登場します。これにより、読者は、登場人物の心情や考え方により深く感情移入することができます。また、トルストイ自身の思想や哲学を、登場人物のセリフや内面描写を通して語られることもあります。