マンの魔の山の技法
語り手
『魔の山』の語り手は作中人物ではなく、三人称全知の語り手である。語り手は登場人物たちの思考や感情に自由にアクセスし、読者に直接語りかけることも少なくない。
語り手はしばしば皮肉やユーモアを交えながら物語を進行させ、登場人物たちの行動や心理を客観的に描写する一方、時折登場人物たちに寄り添うような視点も見せる。
時間
『魔の山』では、時間の流れが複雑に操作されている。作品の前半では、ハンス・カストルプのサナトリウムでの生活が、日々の出来事や季節の移り変わりとともに比較的詳細に描かれる。
しかし、物語が進むにつれて、時間の流れは加速したり、逆に停滞したりするようになる。数ページで数年が経過することもあれば、逆に一瞬の出来事が何ページにもわたって描写されることもある。
モチーフ
『魔の山』には、サナトリウムという閉鎖空間を舞台に、様々なモチーフが登場する。病気と健康、生と死、理性と感性、時間と空間など、対照的な概念が繰り返し描かれ、登場人物たちの内面や作品全体のテーマを浮かび上がらせる。
例えば、レントゲン写真や体温計といった医療器具は、科学技術の進歩と同時に、人間の身体の内奥に潜む死の影を象徴するモチーフとして登場する。
象徴主義
『魔の山』は、象徴主義的な表現に富んだ作品である。作中に登場する人物、場所、物体は、単なる具体的な存在としてではなく、より抽象的な概念や思想を象徴していることが多い。
例えば、サナトリウムは、病気や死の影に覆われた閉鎖的な空間であると同時に、外部世界から隔絶された一種のユートピア、あるいは人間の精神世界を象徴する場所として描かれている。