## ドストエフスキーの悪霊と作者
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時代背景とドストエフスキーの思想
「悪霊」は、1871年から1872年にかけて雑誌「ロシア報知」に連載され、1873年に単行本として出版されました。執筆当時のロシアは、農奴解放令(1861年)後の社会的混乱期にありました。近代化と伝統的な価値観の衝突、社会主義思想の広まり、そして政治的な不安定さがロシア社会を覆っていました。
ドストエフスキー自身、若年期に社会主義サークルに参加した経験があり、ペトラシェフスキー事件に連座してシベリアに流刑となりました。この経験を通して、彼はロシアの未来と西欧思想の影響、そして人間の心の闇について深く考察するようになりました。
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「悪霊」における思想と登場人物
「悪霊」は、1860年代後半から1870年代前半にかけてロシアで実際に起こった事件や思想潮流を背景に、虚無主義、無神論、社会主義、そして革命運動といったテーマが描かれています。登場人物たちは、それぞれの思想や信条に基づいて行動し、対立、葛藤を繰り広げます。
特に、登場人物の一人であるニコライ・スタヴローギンは、ニヒリズムに染まった当時の若者の象徴として描かれ、彼の言動は他の登場人物たちに大きな影響を与えます。ドストエフスキーは、スタヴローギンを通して、行き過ぎたニヒリズムや無神論がもたらす精神的な空虚さ、そしてその先に待ち受ける破滅を描こうとしたと考えられています。
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「悪霊」とドストエフスキー自身の葛藤
「悪霊」は、ドストエフスキー自身の思想的な葛藤を色濃く反映した作品とも言われています。彼は、若年期には社会主義思想に傾倒していましたが、シベリア流刑の経験を通して、次第に宗教的な保守主義へと傾倒していきました。
「悪霊」では、社会主義思想や革命運動に対するドストエフスキー自身の複雑な感情が読み取れます。彼は、当時のロシア社会が抱える問題を直視し、その解決策を模索する一方で、行き過ぎた思想や暴力的な革命には強い拒否感を示していました。