50代のためのメルヴィル「書記バートルビー」
50代と人生の壁 - バートルビーの「したいと思いません」に共感できるか
50代という年齢は、人生における一つの転換期と言えるでしょう。これまで積み重ねてきたキャリア、築き上げてきた家庭、そして自分自身の人生観。これらが様々な変化にさらされ、再考を迫られる時期でもあります。昇進の限界が見えてきたり、子供の独立によって家庭環境が変化したり、健康面での不安が出てきたりするなど、これまでとは異なる現実を突きつけられることも少なくありません。このような状況下で、メルヴィルの「書記バートルビー」を読むことは、一見すると何の解決策も提示していないバートルビーの不可解な行動を通して、自分自身の人生や社会との関わり方を見つめ直す契機になり得ます。バートルビーの「したいと思いません」という静かな抵抗は、50代が直面する様々な「壁」と共鳴する可能性を秘めていると言えるでしょう。
仕事と自己 - バートルビーの受動性は何を意味するのか
物語の中心人物であるバートルビーは、ウォール街の法律事務所で書記として雇われます。当初は真面目に仕事をこなしていたバートルビーですが、ある日突然、書類の謄写を依頼された際に「したいと思いません」と返答し、その後もあらゆる仕事を拒否するようになります。この一見不可解な行動は、読者に様々な解釈を促します。単純な怠慢と片付けることもできますが、資本主義社会における労働のあり方への抵抗、あるいは自己主張の歪んだ形として捉えることも可能です。50代ともなれば、仕事に対する価値観も変化してくる頃でしょう。若い頃のような上昇志向が薄れ、仕事における自分の役割や意義について改めて考える人もいるかもしれません。バートルビーの受動的な態度は、仕事と自己との関係性を見つめ直し、自分にとって本当に大切なものは何かを問い直すきっかけとなる可能性があります。
コミュニケーションの難しさ - バートルビーと語り手の関係
物語の語り手である弁護士は、バートルビーの不可解な行動に戸惑いながらも、彼を解雇することもできず、ついには事務所を移転する選択をします。バートルビーとのコミュニケーションは成立せず、語り手の善意も空回りするばかりです。この語り手とバートルビーの関係性は、現代社会におけるコミュニケーションの難しさを象徴していると言えるでしょう。特に50代ともなると、世代間のギャップや価値観の相違から、職場や家庭でのコミュニケーションに苦労する人も少なくありません。バートルビーの頑なな態度は、他者との意思疎通の困難さを浮き彫りにし、コミュニケーションの本質について改めて考えさせる契機となるでしょう。
社会からの疎外 - バートルビーの末路
最終的にバートルビーは、建物の所有者に通報され、刑務所へと送られます。そして、刑務所の壁の中で静かに息を引き取ります。彼の孤独な死は、社会からの疎外という問題を提起しています。50代という年齢は、社会における役割や立場が変化する時期であり、疎外感を感じやすくなる時期でもあります。バートルビーの末路は、現代社会における人間の孤独や孤立について深く考えさせるものであり、50代が自分自身の置かれた状況や社会との関わり方を見つめ直す上で、一つの示唆を与えてくれるかもしれません。
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読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。