50代のためのプラトン「クリトン」
ソクラテスの死をめぐる問いかけ
プラトンによる対話篇「クリトン」は、ソクラテスの死刑執行を間近に控えた牢獄での、ソクラテスと旧友クリトンとの対話を描いた作品です。クリトンはソクラテスの脱獄を勧めますが、ソクラテスはこれを拒否します。この一見シンプルなやりとりを通して、法への忠誠、正義の本質、そして人生における正しい選択とは何かという普遍的な問いが読者に投げかけられます。50代という人生における転換期を迎えるにあたり、これらの問いは、これまでの人生を振り返り、これからの人生をどのように生きていくかを考える上で、大きな示唆を与えてくれるでしょう。
不正に対する抵抗と法の遵守
クリトンはソクラテスの脱獄を強く勧めます。友人を見捨てることへの罪悪感、ソクラテスの死によって子供たちが父親を失うことへの懸念、そしてソクラテスが不当な判決を受けたことへの憤りなどが、クリトンの主張の根底にあります。しかし、ソクラテスは、たとえ不当な判決であっても、法に従うことが正しいと主張します。彼は、アテナイで生まれ育ち、その法律のもとで恩恵を受けてきた以上、法に背くことは不正であると考えます。このソクラテスの態度は、私たちに法と個人の関係について深く考えさせる契機となります。現代社会においても、法の不備や不公正に直面することは少なくありません。そのような状況下で、どのように行動するのが正しいのか、「クリトン」は、50代の人々が自身の正義観を問い直すための材料を提供してくれます。
多数派の意見と真の正義
クリトンは、ソクラテスが脱獄しないことで、多くの人々がソクラテスの友人たちは彼を救おうとしなかったと非難するだろうと主張します。つまり、世間体や評判を気にするようにソクラテスを説得しようとします。これに対しソクラテスは、多数派の意見に流されることなく、真の正義に基づいて行動すべきだと反論します。50代ともなれば、社会的地位や人間関係の中で、周囲の意見に左右される場面も多々経験してきたことでしょう。しかし、真に重要なのは、他者の評価ではなく、自分自身の良心に従って行動することです。「クリトン」は、50代の人々が、これまでの経験を踏まえ、自分にとっての真の正義とは何かを改めて見つめ直す機会を与えてくれます。
魂のケアと生の意味
ソクラテスは、肉体の死よりも魂の堕落を恐れます。彼は、不正を行うことで自らの魂を汚すことを何よりも避けようとします。そして、真の幸福は、肉体的快楽ではなく、魂の健全さにあると主張します。50代は、人生の後半戦をどのように生きるかを考える時期でもあります。健康への不安や、社会的な役割の変化など、様々な課題に直面する中で、「クリトン」は、外的な要因に左右されない、真の幸福とは何かを考えさせてくれます。ソクラテスが重視した魂のケアという考え方は、50代の人々が、これからの人生をより豊かに生きるための指針となるでしょう。
熟慮に基づく選択
「クリトン」全体を通して、ソクラテスは、感情に流されることなく、理性に基づいて熟慮し、行動することを重視しています。クリトンの脱獄の提案に対しても、その是非を様々な角度から検討し、最終的に自らの信念に基づいて結論を導き出します。50代は、これまでの人生で培ってきた経験や知識を活かし、より深く物事を考えることができる時期です。「クリトン」を読むことで、感情的な反応ではなく、熟慮に基づいた選択の重要性を改めて認識し、これからの人生における様々な選択に活かすことができるでしょう。
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読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。