## J・S・ミルの経済学原理が扱う社会問題
ミルの生きた時代背景と社会問題への関心
19世紀のイギリスは、産業革命の真っただ中であり、資本主義経済が急激に発展していました。しかし、その一方で、貧富の格差の拡大、労働者の劣悪な労働環境、都市のスラム化など、様々な社会問題も深刻化していました。
ジョン・スチュアート・ミル(J.S. Mill)は、こうした時代背景の中で、功利主義の立場から、人間の幸福を最大化する社会の実現を目指しました。ミルは、当時の社会問題を深く憂慮し、その解決のために経済学が重要な役割を果たすべきだと考えていました。
「経済学原理」で扱う社会問題
ミルの主著である『経済学原理』では、従来の経済学の枠組みを超えて、幅広い社会問題が論じられています。
1. 貧困問題
ミルは、貧困は個人の怠惰ではなく、社会構造に起因すると考えました。当時のイギリスでは、救貧法によって貧困層が救済されていましたが、ミルは、救貧法が労働意欲を阻害し、貧困を固定化させていると批判しました。
2. 人口問題
ミルは、人口増加が経済成長を阻害する可能性を指摘し、マルサスの「人口論」に一定の理解を示しました。しかし、ミルは、道徳的な自制による産児制限を主張し、マルサスのような悲観的な未来予測は避けられると考えていました。
3. 分配問題
ミルは、労働と資本の対立を認識し、当時の資本主義社会における富の偏在を批判しました。そして、労働者の立場を強化するために、労働組合の活動や協同組合の設立を支持しました。また、相続税の強化や土地制度の改革など、分配の不平等を是正するための政策提言も行っています。
4. 女性の社会進出
ミルは、女性の権利擁護にも熱心に取り組み、男女平等を訴えました。著書『女性の解放』では、女性の社会進出を阻む要因を分析し、女性参政権の実現や教育機会の平等などを主張しています。経済学においても、女性の経済的自立の重要性を説き、男女間の賃金格差の是正などを訴えました。
5. 環境問題
ミルは、経済成長が環境破壊をもたらす可能性についても言及しています。自然環境の保全と持続可能な社会の発展の両立を重視し、そのための政策の必要性を説いています。
ミルの社会問題への取り組み方
ミルは、これらの社会問題に対して、単なる経済的な解決策だけでなく、道徳や倫理の観点も重視した多角的なアプローチを試みています。ミルの思想は、その後の社会改革運動や福祉国家の形成に大きな影響を与えました。