## 魯迅の阿Q正伝に影響を与えた本
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ドストエフスキー「罪と罰」
魯迅の「阿Q正伝」は、近代中国文学を代表する傑作として知られていますが、その創作背景には、ロシア文学の巨匠、フョードル・ドストエフスキーの影響が色濃く反映されています。特に、「罪と罰」は、主人公の心理描写や社会に対する痛烈な批判など、「阿Q正伝」との共通点が数多く見受けられます。
「罪と罰」は、貧困に喘ぐ元大学生ラスコーリニコフが、金貸しの老婆を殺害した罪悪感に苛まれながらも、自らの犯行を正当化しようと苦悩する姿を描いた作品です。一方、「阿Q正伝」は、清朝末期の中国を舞台に、日雇い労働者である阿Qが、社会の底辺に生きながらも、自己欺瞞と精神勝利法を駆使して、惨めな現実から目を背けようとする姿を描いています。
両作品の主人公は、社会的に低い立場に置かれ、貧困や屈辱に苦しむという共通点を持っています。ラスコーリニコフは、自らの犯行を「非凡な人間」であれば許されると考えますが、阿Qは、「精神勝利法」によって、現実の敗北を勝利へとすり替えることで、自尊心を保とうとします。
また、両作品とも、当時の社会状況や人間の深層心理に対する鋭い洞察が描かれている点も共通しています。「罪と罰」では、19世紀後半のロシア社会における貧富の格差や道徳の崩壊が浮き彫りにされ、「阿Q正伝」では、辛亥革命前の中国社会における封建的な因習や民衆の無知蒙昧さが批判的に描かれています。
このように、「罪と罰」は、主人公の心理描写、社会批判、人間の深層心理への洞察など、様々な面において「阿Q正伝」に大きな影響を与えたと考えられます。魯迅自身も、ドストエフスキーの作品を高く評価しており、「罪と罰」から得た影響を自らの作品に昇華させていったと言えるでしょう。