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遠い山なみの光の読者として

## 遠い山なみの光の読者として

### イシグロ作品との出会い

最初にイシグロ作品を読んだのはいつだったか、はっきりとは思い出せない。本棚のどこか奥深くに、黄ばんだ背表紙の『日の名残り』が眠っているはずだ。あの物語の静けさ、喪失感、そして美しさは、遠い日の記憶のように、心の中に留まっている。

### 遠い山なみの光の静かな魅力

『遠い山なみの光』を手に取ったのは、それからしばらく経ってからのことだった。長崎を舞台にした物語だと聞いて、懐かしさと期待を胸にページをめくったのを覚えている。戦争の傷跡が残る長崎、異国に移り住んだ女性の孤独、そして過去と現在が交錯する語り口。静けさの中に深い情感をたたえた世界に、私はたちまち引き込まれていった。

### 尾を引く謎と静かな感動

物語は、イギリスで暮らす悦子の回想を通して語られる。長崎の記憶、娘の直子との関係、そして謎めいた隣人サチコ。断片的な記憶がパズルのように組み合わされていく中で、読者として、私は悦子の心の奥底に隠された真実を探ろうとした。しかし、イシグロは明確な答えを提示しない。むしろ、読み終えた後も、物語の余韻は静かに、しかし確かに、心の中に残り続けた。

### 再読のたびに深まる味わい

『遠い山なみの光』は、一度読んだだけではわからない、深い味わいのある作品だ。時を経た今、再びこの作品を読み返すと、新たな発見があるように感じる。それはまるで、遠くの山並みを眺めるように、見る角度や時間帯によって、異なる表情を見せてくれるかのようだ。

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