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石川達三の生きている兵隊が書かれた時代背景

石川達三の生きている兵隊が書かれた時代背景

石川達三の『生きている兵隊』は、1938年(昭和13年)に出版されました。これは、昭和時代の初期にあたり、日中戦争(1937年-1945年)が勃発した直後の時期です。この時代のメディアや読書の位置づけを理解するには、当時の社会的、政治的背景を踏まえる必要があります。

当時の社会的・政治的背景

日中戦争の開始は、日本の国内政策にも大きな影響を及ぼしました。国家総動員法が施行され、国民生活のすべてが戦争遂行のために組織されるようになりました。このような状況下では、メディアや出版物にも厳しい検閲が施され、国家のプロパガンダの道具として利用されることが多かったです。

読書の位置づけとメディア環境

この時期、読書は一般大衆にとって主要な情報源の一つであり、また娯楽の手段でもありました。しかし、政府の検閲によって出版される書籍は選ばれたものに限られ、特に戦時下では国威発揚や愛国心の醸成を目的とした内容が多くを占めていました。そのため、『生きている兵隊』のような戦争の実情を描き、人間性を問う内容は非常に珍しく、当時の読者に強い印象を与えたのです。

他のメディアと比較して、ラジオや新聞もまた重要な情報源でしたが、これらもまた政府の厳しい監視下にありました。ラジオは家庭に普及し始めたばかりで、国民に対する政府のメッセージを直接伝える手段として利用されていました。新聞も、戦争報道においては政府からの情報をそのまま伝えることが多く、独立した報道は困難な状況でした。

読書は、このように他のメディアと同様、政府による制約の中で存在していましたが、個人の思考や感情に訴えかける力があるという点で、特別な位置を占めていました。特に、石川達三のような作家が、検閲を逃れ、またはある程度の制約の中ででも、戦争の真実や人間性について問いかける作品を発表できたことは、当時の読書文化において非常に重要な意味を持っていたのです。

この時代の読書は、単なる情報の収集や娯楽を超え、個人の思想や価値観を形成する重要な手段であったと言えます。『生きている兵隊』のような作品は、読者に戦争の現実を直視させ、自身の立場や思想を再考させる契機となりました。

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