樋口一葉のたけくらべの美
美意識
「たけくらべ」は、明治時代、東京の下町を舞台に、思春期を迎えた少年少女の揺れ動く心情や、大人への成長と社会の矛盾、そして、そこに暮らす人々の悲哀を描いた作品です。樋口一葉は、写実主義的な観点から、当時の風俗や習慣、人々の生活を詳細に描写しており、その中で様々な「美」を表現しています。
対比による美
作品では、正反対の要素を対比させることで、それぞれの美しさを際立たせています。例えば、主人公の美少女「美登利」と、その親友でありながら、家の事情で芸妓になることを余儀なくされる「信如」の対比が挙げられます。美登利の純粋さと、信如の背負う運命の残酷さのコントラストが、より一層、それぞれの少女の持つ美しさを強調しています。
また、子供の世界と大人の世界の対比も重要な要素です。子供たちの無邪気さ、純粋さ、残酷さなどが、大人たちの複雑な人間関係、社会の矛盾、厳しい現実などと対比されることで、子供時代の儚さ、美しさが浮かび上がります。
言語表現の美
樋口一葉は、美しく繊細な文章表現を得意としており、「たけくらべ」でも、登場人物の心情や情景描写、四季折々の風景などが、詩情豊かに描写されています。特に、雅俗混合体と呼ばれる、古典的な文語と現代的な口語を組み合わせた独特な文体は、作品に独特のリズム感と美しさを与えています。
例えば、美登利の美しさは、「眉目秀麗」「つややかな黒髪」といった古典的な表現で描写される一方で、子供らしい仕草や言葉遣いは、口語を用いて表現することで、美登利の持つ多面的な魅力を引き出しています。
哀愁の美
「たけくらべ」は、子供時代の終わり、成長に伴う喪失感、社会の矛盾など、どこか哀愁が漂う作品です。美登利や信如の運命、そして、大人になるにつれて失われていく純粋さなど、一筋縄ではいかない人生の現実が、読者の心に深く訴えかけてきます。樋口一葉は、そのような哀愁の中にこそ、人間の真実、そして、美しさを見出していたのかもしれません。