『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は、二つの異なる世界（ハードボイルド・ワンダーランドと世界の終り）が交互に描かれている構成となっています。物語は、主人公がそれぞれの世界で異なる冒険を繰り広げる形で進んでいきます。
「街とその不確かな壁」にも登場する「街」は、世界の終りの方に登場する場所で、主人公が囚われるように暮らす閉鎖的な世界です。街は自分だけの世界、自閉的な世界、自分だけの箱庭のような世界、自分の殻に閉じこもった世界という解釈ができます。しかし、この街には他の解釈や意味も存在します。
- 心の内面世界: 「街」は、主人公の心の内面世界を象徴しているとも考えられます。街に閉じ込められている間、主人公は自分自身の感情や記憶に向き合うことを強いられます。この過程で、彼は自己探求の旅を経験し、自分自身について新たな理解を得ることができます。
- 現実と非現実の境界: この街は、現実と非現実の境界を象徴しているとも言えます。街に住む人々は、自分たちの記憶を失い、時間の感覚がなくなります。このような状況は、村上作品においてよく見られる現実と非現実の交差する世界を示しています。
- 孤独と隔絶: 「街」は、人間の孤独や隔絶を象徴しています。街に住む人々は互いに深いつながりを持つことができず、表面的なコミュニケーションしか交わさない状況が描かれています。この状況は、現代社会における孤独や人間関係の問題を反映しているとも考えられます。
村上春樹の作品における「街」は、彼自身の創作世界や作家としての生き方を象徴しているという解釈も成り立ちます。村上の小説はしばしば現実と非現実が交差する独特の世界観を持っており、その中で様々な物語が展開されます。このような世界は、村上が現実世界とは異なる創作の世界で表現することを選んだ結果と言えるでしょう。
また、「街」が小説という形で村上自身が長く生きながらえることを選んだ象徴と捉えることもできます。彼の作品は多くの読者に愛され、世界中で高い評価を受けており、その中で彼の存在は作家として永続的なものとなっています。
ただし、村上春樹の作品の象徴や意味は、読者それぞれに異なる解釈ができるため、上記の解釈はあくまで一つの見方に過ぎません。他の読者には異なる解釈があるかもしれませんし、村上春樹自身が意図した意味とも異なる場合があります。それでも、彼の作品は多様な解釈が可能であることが、その魅力の一つです。