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心理学×シェイクスピア:リア王

リア王: 狂気と愛憎渦巻く王国を心理学で解剖する

シェイクスピアの四大悲劇の一つ、『リア王』。老王リアは、娘たちの愛を測ろうとした結果、忠実な娘コーディリアを拒絶し、王国を偽りの愛情を語るゴネリルとリーガンに譲ってしまいます。しかし、その愚かな決断は、リア自身を狂気へと導き、王国全体を血で染める悲劇を生み出すことになるのです。

この作品は、権力、愛憎、そして家族の絆という普遍的なテーマを扱いながら、人間の心の弱さと脆さ、そして、老いという逃れられない運命を、リア王の悲劇を通して描き出しています。

今回は、現代心理学の鋭いメスで、登場人物たちの心の奥底を解剖することで、『リア王』という壮絶なドラマに隠された人間心理の真実を明らかにしていきましょう。

1. リア王: 権力と承認欲求に溺れた老王

リア王は、ブリテン王国の老王であり、長年、絶対的な権力を振るってきた人物です。彼は、娘たちに自分の王国を分割相続させる際、「誰が自分を一番愛しているか」という問いかけによって、娘たちの愛情を測ろうとします。

彼のこの行動は、権力者によく見られる承認欲求の強さの表れと言えるでしょう。長年、王として周囲から尊敬され、服従されてきたリアは、権力を手放した後も、周囲からの愛情や賞賛を求め、自分の価値を確認しようとしています。

ナルシシズムと自己愛的怒り

リアの性格は、ナルシシズム(自己愛が過剰で、他者への共感性に欠ける傾向)の特徴を示しています。 彼は、自分の権力や地位、そして、自分自身を過剰に評価しており、他者からの批判や反対意見を受け入れることができません。

コーディリアが彼の期待通りの言葉を口にしなかった時、彼は激怒し、彼女を勘当してしまいます。 これは、「自己愛的怒り」と呼ばれる、ナルシシズムの人が経験する、特徴的な怒りの表れです。 自己愛的怒りは、自分の自尊心や優越感、重要性が脅かされたと感じた時に、爆発的に発生します。

老いと認知機能の衰え

また、リアの行動は、「老い」によって、認知機能が衰えている可能性も示唆しています。加齢に伴い、人間の脳は、前頭葉(思考、判断、抑制などを司る脳の領域)の機能が低下し、感情の抑制や、論理的な思考が難しくなることがあります。

リア王は、コーディリアの真意を見抜けず、ゴネリルとリーガンの偽りの愛情に騙されてしまうのです。

現代社会におけるリア王の姿

現代社会に置き換えると、リア王は、ワンマン経営で会社を大きくしてきたものの、後継者選びに失敗し、会社を崩壊させてしまう老経営者かもしれません。 彼は、自分の判断力や、これまで積み上げてきた成功体験に固執し、周囲の意見に耳を傾けず、時代遅れの経営を続けてしまうでしょう。

そして、会社の業績が悪化しても、自分の責任を認めようとせず、部下や周りの環境のせいにするかもしれません。

2. ゴネリルとリーガン: マキャベリズムとダークトライアド

ゴネリルとリーガンは、リア王の長女と次女であり、父王の愛情と王国を得るために、偽りの愛情を囁きます。

マキャベリズムと共感性の欠如

彼女たちの行動は、「マキャベリズム」という性格特性と関連づけて解釈できます。 マキャベリズムとは、目的達成のためには手段を選ばず、他人を利用することに抵抗がない、冷酷で計算高い性格特性のことです。

彼女たちは、リア王の愛情を巧みに利用し、目的達成(権力と財産の獲得)のために、冷酷なまでに合理的な行動をとります。

また、彼女たちの行動は、共感性(他者の感情を理解し、共有する能力)の欠如も示唆しています。

ダークトライアド

ゴネリルとリーガンは、心理学でダークトライアドと呼ばれる、ナルシシズム(自己愛が過剰)、マキャベリズム(目的のためには手段を選ばない)、サイコパシー(反社会的な行動傾向)という、3つの負の特性を併せ持っていると考えられます。

彼女たちは、権力欲と支配欲が強く、自らの利益のために、他人を平気で傷つけ、利用します。 さらに、良心の呵責や罪悪感を感じることが少なく、冷酷で残忍な行動も、躊躇なく実行する可能性があります。

現代社会に生きるゴネリルとリーガン

ゴネリルとリーガンは、現代社会においては、例えば、権力闘争に明け暮れる政界の策略家、あるいは、利益を追求するあまり、倫理的に問題のある行動を繰り返す企業の幹部として、その姿を見せるかもしれません。

彼女たちは、周囲の人々を巧みに操り、自らの野心を満たそうとしますが、その過程で、多くの人を不幸にする可能性があります。

3. コーディリア: 誠実さと自己犠牲

コーディリアは、リア王の三女であり、誠実愛情深い女性として描かれています。

彼女は、父の愛情を試すような問いかけに対して、偽りの言葉を口にすることを拒否します。

誠実さと自己犠牲

コーディリアの行動は、「自己犠牲」という概念で説明できるかもしれません。

彼女は、自分の正直な気持ちを伝えることで、父王の怒りを買い、王国を失うリスクを承知の上で、真実を語ること選びます。 これは、彼女が、権力や財産よりも、真実正義といった、より高次な価値観を重視していることを示唆しています。

現代社会のコーディリア

現代社会に置き換えると、コーディリアは、不正を告発する内部告発者(whistleblower)かもしれません。

彼女は、組織内の不正や腐敗を目撃し、それを公にすることで、自分のキャリアや立場を失うリスクを負いながらも、真実を明らかにしようと決意するでしょう。

4. グロスター伯: 騙されやすい性格と「ハロー効果」

グロスター伯は、エドガーとエドマンドの父であり、リア王の忠実な家臣です。

騙されやすい性格とハロー効果

彼は、エドマンドの巧みな嘘によって騙され、実子であるエドガーを勘当してしまいます。 彼の騙されやすい性格は、「ハロー効果」と呼ばれる認知バイアスによって説明できるかもしれません。

ハロー効果とは、ある特定の特徴(例えば、容姿や話し方)が優れていると、他の特徴も実際以上に高く評価してしまう傾向のことです。

グロスター伯は、エドマンドの外面的な魅力や巧みな話術に騙され、彼の本性を見抜くことができませんでした。

親子関係の葛藤と愛着スタイル

また、彼とエドガーの関係は、「親子関係」における葛藤(意見や価値観の対立)と、「愛着スタイル」の観点からも分析できます。

グロスター伯は、エドガーに対して、伝統的な価値観や、社会的な成功を押し付ける、権威主義的な父親と言えるでしょう。

一方、エドガーは、父の期待に応えようとする「良い子」として育ってきましたが、心の奥底では、父の支配に息苦しさを感じていたかもしれません。

現代社会におけるグロスター伯

現代社会に置き換えると、グロスター伯は、情報操作やフェイクニュースに騙されやすい、情報リテラシーの低い人かもしれません。

彼は、インターネットやSNSで流れてくる情報を鵜呑みにしてしまい、真偽を確かめることなく、拡散してしまうことがあるかもしれません。

5. エドガー: 逆境を乗り越える resilience(回復力)

エドガーは、グロスター伯の嫡子であり、弟のエドマンドの策略によって、父から勘当され、追放されてしまいます。 しかし、彼は、絶望に打ちひしがれることなく、狂人トムに変装し、厳しい状況を生き抜こうとします。

resilience と自己効力感

彼の行動は、「resilience」(回復力、逆境を乗り越える力)の高さ、そして、「自己効力感」(自分は何かできるという感覚)の強さを示唆しています。

エドガーは、理不尽な扱いを受けながらも、自分を信じ、前向きに生きようとする強靭な精神力を持っています。

現代社会のエドガー

現代社会に置き換えると、エドガーは、不当解雇や事業の失敗といった、人生の大きな挫折を経験しながらも、そこから学び、新たな挑戦を続ける起業家かもしれません。

彼は、困難な状況にも屈することなく、自らの能力を信じ、諦めずに努力を続けることで、成功を掴むことができるでしょう。

6. エドマンド: 目的のためには手段を選ばない「マキャベリスト」

エドマンドは、グロスター伯の庶子であり、自らの野心のために、兄エドガーと父を陥れる、冷酷計算高い人物です。

マキャベリズムとダークトライアド

彼の行動原理は、「マキャベリズム」という性格特性で説明できます。 マキャベリズムとは、目的達成のためには手段を選ばず、他人を利用することに抵抗がない、冷酷で計算高い性格特性です。

エドマンドは、嫡子であるエドガーの地位を奪い、自らがグロスター家の後継者となるために、巧みな嘘と策略で、父と兄を欺きます。 彼の行動は、倫理観や道徳心の欠如を示しており、目的のためには、どんな犠牲も厭わない、ダークトライアド(ナルシシズム、マキャベリズム、サイコパシー)の要素を強く持っていると考えられます。

現代社会のエドマンド

もしエドマンドが現代に生きていれば、彼は、出世のために同僚を蹴落とす、野心的なビジネスマンかもしれません。 彼は、自分の利益を最大化するために、平気で嘘をつき、不正を働くこともあるでしょう。

『リア王』: 人間の弱さと強さ、そして心の回復

『リア王』は、愛と憎しみ、裏切りと忠誠、そして、狂気と正気といった、対照的なテーマを通して、人間の心の奥底を深く探求する作品です。

登場人物たちは、それぞれの性格や立場、そして、置かれた状況の中で、苦悩し、葛藤しながら、自らの道を歩んでいきます。

私たちは、現代心理学の知見を手がかりに、彼らの心の内面を分析することで、彼らの行動や決断、そして、彼らを悲劇へと導いた要因を、より深く理解することができます。

そして、リア王とその娘たちの物語は、家族という複雑な人間関係の中で、私たちはどのように愛し、どのように許し、そして、どのように生きていくべきか、という、普遍的な問いを、私たちに投げかけていると言えるでしょう。

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読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。

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