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心理学×シェイクスピア:ペリクリーズ

ペリクリーズ: 試練と再生の航海、心理学が照らす心の羅針盤

『ペリクリーズ』は、数奇な運命に翻弄されながらも、愛する娘との再会を果たす、タイアの君主ペリクリーズの波乱万丈な物語です。

嵐、難破、陰謀、そして、愛する者との別れと再会といった、まるでギリシャ神話のようなドラマティックな展開は、観客を、ペリクリーズの壮絶な人生航海へと誘います。

しかし、このロマンス劇の魅力は、単なる冒険物語の枠を超えています。シェイクスピアは、ペリクリーズの苦難と再生を通して、喪失と希望絶望と救済、そして、運命の力といった、人間存在の根源的なテーマを、深く掘り下げています。

今回は、現代心理学の羅針盤を手に、登場人物たちの内面を航海し、彼らの行動や感情、そして、彼らを待ち受ける運命の背後に隠された心理的メカニズムを、新たな光で照らしていきましょう。

1. ペリクリーズ: 試練に立ち向かう不屈の精神

ペリクリーズは、タイアの君主であり、知性と勇気、そして、高潔な精神を備えた人物として描かれています。

彼は、アンティオケ王の娘に求婚しますが、その王女が、父と近親相姦の関係にあるという、恐ろしい秘密を知ってしまいます。

ストレス反応と防衛機制

このショッキングな出来事は、ペリクリーズに大きなストレスを与え、彼は、命の危険を感じ、タイアから逃亡します。 彼の行動は、「闘争・逃走反応」と呼ばれる、ストレスに対する生理的・行動的な反応の一種と解釈することができます。

闘争・逃走反応は、危険な状況に直面した時に、交感神経系が活性化され、心拍数や血圧の上昇、筋肉の緊張、瞳孔の散大といった身体的変化が起こり、闘争(戦う)か逃走(逃げる)の準備をする反応です。

ペリクリーズは、アンティオケ王の権力怒りに立ち向かうよりも、逃げることによって、自らの身の安全を確保することを選択しました。

喪失と悲嘆

その後、彼は、航海の途中で嵐に遭い、妻セーザを失います。 愛する妻の死は、ペリクリーズに深い悲しみをもたらし、彼は、長期間にわたって、喪失感絶望感に苦しむことになります。

彼の心の状態は、「悲嘆のプロセス」という心理学の概念で説明することができます。 悲嘆のプロセスは、一般的に、否認、怒り、交渉、抑うつ、受容という5つの段階を経て、徐々に心の傷を癒やしていくと言われています。

回復と成長

しかし、ペリクリーズは、絶望に屈することなく、長い航海の末に、娘マリーナとの再会を果たし、心の 再生 を遂げます。

彼の物語は、私たちに、どんなに大きな困難や悲しみに直面しても、希望を捨てずに、前向きに生きることの大切さを教えてくれるでしょう。

現代社会を生きるペリクリーズ

現代社会に置き換えると、ペリクリーズは、例えば、巨大企業の不正を内部告発した結果、会社から追放され、家族とも離れ離れになってしまう、正義感の強いビジネスマンかもしれません。

彼は、 whistleblowing(内部告発)という大きなストレスを経験し、失業や家族との別離といった苦難に直面しますが、それでも、自らの信念を曲げることなく、前向きに生きようと努力するでしょう。

2. マリーナ: 逆境に負けず、愛を信じる

マリーナは、ペリクリーズの娘であり、幼い頃に母を亡くし、その後、様々な苦難を経験します。

幼児期のトラウマと resilience

彼女は、海賊に誘拐され、売春宿に売られてしまいますが、その過酷な環境の中でも、自らの純粋さ心の強さを失いません。

幼い頃に、母を亡くし、父とも生き別れになったという経験は、彼女に大きなトラウマを与えたと考えられます。

しかし、彼女は、そのトラウマを乗り越え、逆境の中でも、希望を捨てずに、力強く生き抜きます。

彼女の心の強さは、「レジリエンス」(回復力、逆境を乗り越える力)という心理学の概念で説明できるでしょう。

愛着理論と人間関係

マリーナは、幼少期のトラウマにも関わらず、他者への信頼愛情を失っていません。

これは、「愛着理論」の観点から見ると、彼女が、父親であるペリクリーズとの間に、安定型愛着を形成していたことを示唆しています。

安定型愛着の人は、愛情深く、信頼できる養育者との関係性の中で、安心感自信を育み、その経験は、その後の人間関係にも、ポジティブな影響を与えます。

マリーナは、ペリクリーズとの安定した愛着関係によって、心の安定と resilience を獲得し、困難な状況にも、屈することなく、前向きに立ち向かうことができたのでしょう。

現代社会におけるマリーナ

現代社会に置き換えると、マリーナは、例えば、紛争や貧困といった困難な環境で育ちながらも、教育を受ける機会を得て、自らの力で人生を切り開いていく女性かもしれません。

彼女は、過去の辛い経験を乗り越え、社会に貢献しようと努力する、強い意志行動力を持つ人物として、その存在感を示すでしょう。

3. アンティオカス: 歪んだ欲望と破滅

アンティオカスは、アンティオケの王であり、自分の娘と近親相姦の関係を持つ、邪悪な人物として描かれています。

権力と逸脱行動

彼は、権力欲望に溺れ、倫理的な一線を越えてしまいます。

彼の行動は、「権力の心理学」と「逸脱行動」という視点から分析することができます。

権力を持つ者は、その力によって、周囲の人々を支配し、自分の欲望を満たそうとする誘惑に駆られやすくなります。 また、権力者は、周囲からの監視や批判の目が届きにくいため、逸脱行為(社会規範から逸脱した行動)に走りやすい傾向があります。

現代社会におけるアンティオカス

現代社会に置き換えると、アンティオカスは、例えば、権力と財力を使って、弱者を搾取する、腐敗した政治家企業経営者の姿かもしれません。

彼らは、自らの欲望を満たすために、法律や倫理を無視し、不正な手段を用いることさえ厭わないでしょう。

4. サイモニディーズ: 慈悲深く公正な王

サイモニディーズは、ペンタポリスの王であり、娘セーザをペリクリーズに嫁がせる、慈悲深く公正な人物として描かれています。

彼は、ペリクリーズの苦難を理解し、彼に温かく接します。 また、娘セーザの死後も、ペリクリーズを慰め、支えようとします。

父親としての愛情と共感性

彼の行動は、父親としての愛情と、共感性の高さから生まれています。 彼は、娘を愛する気持ちと同様に、ペリクリーズの苦しみを理解し、彼に寄り添おうとするのです。

現代社会におけるサイモニディーズ

現代社会に置き換えると、サイモニディーズは、部下の才能を見抜き、温かく指導する、理想的な上司かもしれません。

彼は、部下のプライベートな事情にも理解を示し、困っている時には、親身になって相談に乗ってくれるでしょう。

ペリクリーズ: 荒波を超えて、心の港へ

『ペリクリーズ』は、運命の嵐に翻弄されながらも、愛と希望を胸に、困難な航海を続けるペリクリーズの物語です。

登場人物たちは、それぞれの性格や置かれた状況によって、喜びと悲しみ、愛と憎しみ、そして、絶望と希望といった、様々な感情の波に乗りながら、人生という航海を続けていきます。

私たちは、現代心理学という羅針盤を手に、彼らの内面世界を深く探求することで、この作品に込められた、人間の心の複雑さ、そして、人生の不確実さに対するシェイクスピアの洞察を、より鮮明に理解することができるでしょう。

そして、ペリクリーズの物語は、私たち自身の人生においても、困難や逆境を乗り越え、心の傷を癒し、そして、新たな希望を見出すためのヒントを与えてくれるのではないでしょうか。

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読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。

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