## 太宰治の人間失格と言語
「人間失格」における「私」の語りと言語の特徴
「人間失格」は、太宰治の晩年の作品であり、彼自身の内面を色濃く反映したとされる作品です。語り手である「私」は、幼少期から人間社会に馴染めず、「道化」を演じることでしか他者と関わることができない自身の姿を赤裸々に綴ります。
「私」の語りは、非常に内省的で、自己嫌悪に満ちています。彼は常に自己の内面を分析し、自らを「恥の多い生涯」を送る「落伍者」と断じています。彼の言葉は、自己卑下や自虐に満ちており、自己存在の肯定を徹底的に拒絶するような絶望感が漂っています。
また、「私」の文章は、古典的な文語調をベースとしながらも、口語的な表現や独特の比喩表現が散りばめられており、彼の内面の葛藤や焦燥感をより鮮明に描き出しています。特に、比喩表現は、彼の内面の不安定さや、現実からの逃避願望を象徴的に表しています。
「道化」としての語り
「私」は、人間社会に馴染めない自分を守るために、「道化」を演じると述べています。彼は、周囲の人間を「お笑いぐさ」と呼び、彼らの期待通りの滑稽な振る舞いをすることで、自身の内面を見せないように努めています。
「道化」としての「私」の語りは、諧謔的で軽妙洒脱な表現を用いる一方で、底知れぬ虚無感や孤独感が漂っています。彼の言葉は、ユーモアという仮面の裏側に、人間社会への深い絶望と諦念を隠しているように感じられます。
女性との関係性における言語
「私」は、女性との関係においても、「道化」を演じることが多いと語られています。彼は、女性の気を引くために、わざと軽薄な振る舞いをしたり、自虐的な発言を繰り返したりします。
「私」にとって、女性は、心の拠り所となる存在であると同時に、自身の弱さや醜さを露呈させる恐怖の対象でもあります。彼は、女性に対して本心を打ち明けることを恐れ、常に「道化」の仮面を被り続けることで、心の距離を保とうとします。
彼の女性に対する言葉は、甘美でロマンチックな表現を用いる一方で、依存心や独占欲、そして裏切られることへの恐怖が垣間見えます。