夏目漱石の坊ちゃんに影響を与えた本
影響を与えた一冊:『當世書生気質』
夏目漱石の『坊ちゃん』は、明治時代の封建的な社会や教育制度に対する痛烈な風刺が込められた作品として、今なお多くの読者を魅了しています。主人公の行動や言動には、漱石自身の正義感や倫理観が色濃く反映されていますが、その背景には、様々な文学作品からの影響も無視できません。
数ある作品の中でも、『坊ちゃん』に大きな影響を与えたと考えられる作品の一つに、坪内逍遥の『當世書生気質(とうせいしょせいかたぎ)』があります。この作品は、明治初期の学生生活を題材に、当時の学生たちの気質や社会風潮を風刺的に描いた小説です。
『當世書生気質』と『坊ちゃん』の共通点は、まず主人公の性格設定に見られます。両作品の主人公は、いずれも正義感が強く、曲がったことが大嫌いな性格で、周囲の不正や欺瞞に真っ向から立ち向かっていきます。
例えば、『當世書生気質』の主人公・野々口精作は、学歴や家柄で人を判断する風潮や、金銭に翻弄される学生たちの姿を目の当たりにし、激しい怒りを覚えます。彼は、そんな世俗的な価値観に染まらない、自分の信念を貫き通す人物として描かれています。
一方、『坊ちゃん』の主人公もまた、赴任先の旧制中学で、陰湿ないじめや保身ばかりを考える教師たちの姿を目の当たりにし、憤りを感じます。彼は、周りの教師たちとは全く異なる正義感と行動力で、彼らに立ち向かっていきます。
このように、両作品の主人公は、その正義感の強さや行動力において、共通点が見られます。漱石は、『當世書生気質』の主人公像から大きな影響を受け、それを独自に発展させることで、『坊ちゃん』の主人公像を創造したのではないでしょうか。
また、『當世書生気質』は、『坊ちゃん』における風刺の対象とも共通点が見られます。両作品は、当時の社会における学歴偏重主義や上辺だけを取り繕う風潮、そして保身に走る人間の姿を痛烈に批判しています。