## 夏目漱石の『こころ』の思想的背景
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明治時代の精神状況
『こころ』は、明治時代後半の日本を舞台にしています。この時期は、明治維新による急激な近代化と西洋化の影響を受け、日本の伝統的な価値観と西洋の個人主義的な価値観との間で揺れ動く時代でした。
西洋思想の流入は、人々に自由や平等といった新しい価値観をもたらすと同時に、伝統的な道徳観や家族制度を揺るがし、人々の心に深い葛藤を生み出しました。
また、日清・日露戦争の勝利は国家主義的な風潮を高めましたが、同時に、国際社会における日本の立場や、戦争の倫理といった問題を突きつけ、人々に複雑な思いを抱かせました。
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西洋近代思想の影響
漱石自身も、東京帝国大学で英文学を学び、イギリス留学を経験する中で、西洋近代思想、特に個人主義や功利主義などに触れました。
漱石は、西洋近代思想が持つ個人主義的な側面に共感しつつも、それが日本の伝統的な倫理観と相容れない部分があることにも気づき、葛藤を抱えていました。
『こころ』に登場する「先生」や「K」といった人物は、西洋近代思想の影響を受けながらも、伝統的な日本人の倫理観との間で苦悩する姿を通して、漱石自身の内面的な葛藤を投影していると言えます。