## 三島由紀夫の金閣寺が扱う社会問題
###
美と醜悪の対立
主人公・溝口は、吃音というコンプレックスを抱え、周囲との間に壁を感じながら生きています。彼にとって金閣は、現実を超越した絶対的な美の象徴です。醜悪な自己と対比される金閣の美は、溝口の中で次第に増幅し、彼を苦しめます。溝口の苦悩は、戦後社会における価値観の混乱と、既存の価値観に馴染めない個人の苦しみを象徴していると言えるでしょう。
溝口は金閣の美しさに魅せられる一方で、その美しさ故に自分が近づけばそれを汚してしまうのではないかという恐怖にも似た感情を抱きます。金閣は溝口にとって、憧憬と同時に、自己嫌悪や疎外感を突きつける存在として描かれています。
###
戦後日本の精神的混乱
戦後、日本は焼け野原から復興を遂げますが、人々の心には戦争の傷跡が残っていました。敗戦によってそれまでの価値観は崩壊し、人々は精神的な空白を抱えていました。金閣は、伝統的な日本文化の象徴として登場しますが、同時に戦争によって失われたもの、あるいは戦争によって変質してしまったものを象徴してもいます。
溝口が金閣に執着する姿は、失われた価値観を求めて彷徨う戦後日本の精神性を表しています。また、溝口を取り巻く登場人物たちも、それぞれ戦争によって心に傷を負っており、金閣の存在を通して彼らの苦悩も浮き彫りにされます。
###
現実と理想の乖離
溝口にとって金閣は絶対的な美の象徴ですが、現実の金閣は戦争や老朽化によって損なわれた部分も抱えています。溝口は金閣の現実と理想の乖離に苦悩し、最終的には金閣を焼き払うという行為に走ります。
この溝口の行動は、理想に執着するあまり現実との折り合いをつけられなくなった人間の末路を描いているとも言えます。戦後の日本社会においても、高度経済成長の裏側で、理想と現実のギャップに苦しむ人々が多く存在しました。金閣は、そうした社会状況を象徴する存在としても解釈できるでしょう。