## ヴォルテールの哲学辞典の対称性
### ヴォルテールの哲学辞典における対称性の概念は、多義的な解釈を許容します。
まず、 “辞典”という形式自体が、アルファベット順という一定の規則に基づいた対称性を内包しています。 しかし、ヴォルテールの「哲学辞典」は、項目の配列が厳密なアルファベット順に完全に従っているわけではありません。 これは、ヴォルテールが意図的に、 ある種の “非対称性” を導入することによって、 読者に単なる辞書的な知識の羅列を超えた、 批判的な思考を促そうとした可能性を示唆しています。
### さらに、個々の項目の内容に着目すると、
相反する概念や立場が対照的に提示されているケースが散見されます。 例えば、「戦争」と「平和」、「愛」と「憎しみ」、「理性」と「情念」といった対の関係にある項目は、 それぞれの概念を相対化し、 多面的に考察することを読者に促していると言えるでしょう。
### また、「哲学辞典」全体を貫くヴォルテールの主張、
すなわち、宗教的・政治的権威に対する批判や、 言論の自由、 信教の自由の擁護といった啓蒙主義的な思想も、 ある種の対称性を孕んでいると解釈することが可能かもしれません。 つまり、当時の社会に広く見られた不平等や不条理といった “非対称性” を是正し、 より公正で理性の支配する社会を実現しようとする試み自体が、 逆説的に一種の対称性を志向するものと言えるからです。
### 重要なのは、
「哲学辞典」における対称性は、 静的な均衡状態を表すものではなく、 むしろ絶え間ない tension をはらんだ、 動的なものであるということです。