ヴォルテールの哲学辞典の周辺
ヴォルテールの生涯と著作活動について
フランソワ＝マリー・アルエ（1694-1778）、筆名ヴォルテールは、フランス啓蒙主義を代表する哲学者、作家、歴史家、劇作家です。彼はその生涯を通じて、社会的不公正、宗教的偏見、言論の自由の制限に反対する作品を数多く執筆しました。
ヴォルテールの著作活動は多岐にわたり、小説、戯曲、歴史書、哲学エッセイ、書簡など、様々なジャンルに及びます。彼の作品は、鋭いウィット、明晰な文体、そして権力に対する痛烈な批判によって特徴付けられます。代表作としては、『カンディード』(1759年)、『ツァディグ』(1747年)、『ルイ14世の世紀』(1751年) などが挙げられます。
哲学辞典の出版と特徴
『哲学辞典』(Dictionnaire philosophique) は、1764年に初版が出版されたヴォルテールの代表作の一つです。アルファベット順に配列された様々な項目について、ヴォルテール独自の視点から解説を加えた百科事典形式の作品です。ただし、伝統的な百科事典とは異なり、体系的な知識の網羅を目的とするものではありません。
むしろ、ヴォルテールは、宗教、政治、道徳、社会など、幅広いテーマについて、自らの思想や信条を、時には皮肉やユーモアを交えながら、読者に提示しようとしました。そのため、客観的な記述よりも、主観的な意見や主張が前面に出された項目も多く見られます。
初版は匿名で出版されましたが、その内容からヴォルテールの著作であることはすぐに明らかとなり、たちまちヨーロッパ中で大きな反響を呼びました。
検閲と論争
『哲学辞典』は、当時のフランス社会において支配的であったカトリック教会の教義や、絶対王政に対する痛烈な批判を含んでいたため、出版直後からフランス政府や教会からの厳しい検閲を受けました。発禁処分を受け、焚書に処せられたこともありました。
しかし、ヴォルテールは、検閲に対しても、言論の自由の重要性を訴え、様々な手段を用いて自らの主張を世に広めようとしました。彼は、友人や支持者を通じて、密かに『哲学辞典』を出版し続け、版を重ねるごとに内容を拡充していきました。
哲学辞典の影響
『哲学辞典』は、フランス啓蒙主義を代表する作品の一つとして、ヨーロッパ中に大きな影響を与えました。宗教的寛容、理性に基づいた思考、人権の尊重といったヴォルテールの思想は、後のフランス革命やアメリカ独立宣言にも影響を与えたと言われています。
今日でも、『哲学辞典』は、ヴォルテールの思想を知る上で重要な作品として、また、18世紀フランス社会の状況を理解する上での貴重な資料として、広く読まれています。