ヴォルテールの哲学辞典に影響を与えた本
ピエール・ベールの『歴史批評辞典』
ヴォルテールの『哲学辞典』は、18 世紀の啓蒙主義の思想を代表する作品であり、宗教、政治、道徳など、幅広いテーマについて、鋭い批判精神と風刺の精神をもって書かれたものです。この作品に大きな影響を与えた本の 1 つに、ピエール・ベールの『歴史批評辞典』があります。
ピエール・ベール(1647-1706)は、フランスの批評家で、聖書や古典文献に対して批判的な立場をとったことで知られています。彼の主著である『歴史批評辞典』は、1697 年に刊行され、聖書や古典文献に記された奇跡や超自然現象を、理性と歴史的証拠に基づいて批判的に検討したものです。ベールは、聖書の記述には矛盾や不合理な点が多く、歴史的事実と一致しない部分もあると主張しました。また、古典文献に描かれた神々や英雄たちの物語は、歴史的事実ではなく、神話や伝説にすぎないと考えました。
ベールの著作は、当時のフランス社会に大きな衝撃を与え、聖書の権威を揺るがすものとして、教会から激しい攻撃を受けました。しかし、彼の理性主義的な思想は、ヴォルテールをはじめとする啓蒙主義の思想家たちに大きな影響を与えました。
ヴォルテールは、ベールの著作を高く評価し、彼の批判精神と歴史批判の手法を自身の作品にも取り入れました。『哲学辞典』において、ヴォルテールは、ベールと同様に、宗教的権威や伝統的な道徳観念に対して批判的な立場をとっています。彼は、理性と経験に基づいた思考の重要性を説き、迷信や偏見を排除しようとしました。
ヴォルテールの『哲学辞典』は、ベールの『歴史批評辞典』の影響を受け、宗教や道徳、政治など、幅広いテーマについて、理性と経験に基づいた批判的な考察を加えた作品となっています。ベールの著作は、ヴォルテールに、批判精神と歴史批判の手法を授け、啓蒙主義の思想を代表する作品を生み出すきっかけを与えたと言えるでしょう。