ヴォルテールの哲学辞典と言語
ヴォルテールの哲学辞典について
『哲学辞典』(仏: Dictionnaire philosophique)は、啓蒙主義のフランスの哲学者ヴォルテールによって書かれた百科事典的な辞書です。ヴォルテールは、本名フランソワ=マリー・アルエといい、1694年生まれ1778年没の作家、哲学者、歴史家です。18世紀フランスを代表する啓蒙思想家で、理性と経験に基づいた理性主義を唱え、迷信や偏見、不寛容を攻撃しました。
成立と出版
『哲学辞典』は、当初『携帯用便覧』(Dictionnaire portable)というタイトルで、1764年に匿名で出版されました。しかし、その内容は聖書や教会、当時の社会制度に対する痛烈な批判に満ちており、発禁処分を受けました。その後、ヴォルテールは内容を改訂・加筆し、1770年から1774年にかけて『哲学に関する疑問』というタイトルで、全7巻からなる増補版を出版しました。これが今日『哲学辞典』として知られるものです。
構成と内容
『哲学辞典』は、アルファベット順に配列された約700の項目から構成されています。各項目は、短いものから長いものまで様々ですが、いずれもヴォルテールの鋭い視点とウィットに富んだ筆致で書かれています。内容は、哲学、宗教、歴史、文学、政治、社会、科学など多岐にわたります。
特徴
『哲学辞典』は、伝統的な百科事典とは異なり、体系的な知識の網羅を目指したものではありません。むしろ、ヴォルテール自身の関心や問題意識に基づいて、自由にテーマが選ばれ、論じられています。また、各項目は独立しており、相互に参照するような体系的な構成にはなっていません。
言語とスタイル
ヴォルテールは、『哲学辞典』において、明快で簡潔なフランス語を用いています。これは、当時の学術書がラテン語で書かれていた慣習を打ち破り、より多くの人に思想を伝えることを目的としたためです。また、ヴォルテールは、皮肉や風刺を交えたウィットに富んだ文体で、読者を惹きつけると同時に、鋭く思想を批判しました。
影響
『哲学辞典』は、当時のヨーロッパ社会に大きな影響を与えました。聖書や教会に対する批判は、宗教改革の気運をさらに高め、理性に基づいた社会の実現を訴える啓蒙思想の普及に貢献しました。また、明快で簡潔な文体は、フランス語の規範となるスタイルとして、後世代の作家たちに大きな影響を与えました。