ヴォルテールの哲学書簡の構成
イギリス社会についての考察
「哲学書簡」は、全25通の手紙の体裁をとっており、それぞれが独立したテーマについて論じています。
第1~4通は、クエーカー教徒の宗教観、慣習、社会制度を好意的に紹介することで、宗教的寛容の精神をフランスに訴えかけようとします。
第5~7通は、イギリス議会政治と王権のあり方について論じ、フランスの絶対王政を暗に批判します。
第8~14通では、イギリスの貿易と商業の隆盛を支える自由主義経済と、それを理論的に支えるロックの哲学を高く評価します。
第15~17通では、イギリスにおける自然科学、特にニュートン力学の発展を紹介し、デカルト主義的な自然観が支配的なフランスとの違いを浮き彫りにします。
第18通では、パスカルの思想を取り上げ、その人間観や宗教観を批判的に分析します。
第19~21通では、イギリス演劇、特にシェイクスピアの作品を取り上げ、その自由な表現や人間描写を高く評価します。
第22~24通では、イギリスにおける宗教と道徳の関係について論じ、宗教的寛容の重要性を改めて強調します。
最終第25通では、イギリス社会全体の印象を総括し、フランス社会への示唆を与えています。
構成の特徴
「哲学書簡」は、特定のテーマに沿って体系的に論を展開するのではなく、具体的な事例や比較を交えながら、多岐にわたるテーマを断片的に論じていくという構成上の特徴を持っています。
これは、検閲を恐れて直接的な批判を避けるという意図と同時に、読者に新鮮な驚きと知的刺激を与えることを狙ったものと考えられます。
また、手紙という形式を採用することで、友人への私信という体裁をとりつつ、実際には広く一般読者に向けて自分の思想を訴えかけるという意図が込められています。
さらに、イギリス社会の実情を客観的に紹介するという体裁をとりつつ、随所でフランス社会への批判を忍び込ませることで、読者に問題意識を喚起する効果を狙っています。