ヴォルテールの哲学書簡から学ぶ時代性
ヴォルテールの時代背景と「哲学書簡」の概要
18世紀前半のフランスは、絶対王政とカトリック教会の権威が社会を支配していました。啓蒙主義の思想家であったヴォルテールは、言論の自由や宗教的寛容、理性に基づいた社会の実現を訴え、旧体制への批判を行いました。
1733年に匿名で出版された「哲学書簡」は、イギリス滞在中に感銘を受けたイギリス社会の制度や文化、思想を紹介する形式を取りながら、フランスの旧体制を痛烈に批判した書簡集です。イギリスの宗教的寛容や政治体制、科学技術の発展を高く評価することで、フランスの現状を暗に批判し、大きな反響を呼びました。
「哲学書簡」に現れる時代性：宗教批判と寛容の精神
「哲学書簡」で特に有名なのは、イギリスの宗教的寛容を論じた部分です。多様な宗派が共存するイギリス社会を目の当たりにしたヴォルテールは、フランスにおけるカトリック教会の権力と不寛容を批判しました。
当時のフランスでは、カトリック以外の宗教は弾圧され、信仰の自由は認められていませんでした。ヴォルテールは、このような宗教的抑圧が社会の発展を阻害すると考え、理性に基づいた宗教観を提示しました。
彼は、特定の宗教の教義に盲目的に従うのではなく、理性に基づいて自由に信仰を選択すべきだと主張しました。そして、異なる宗教が互いに尊重し合い、共存する社会こそが理想であると説きました。
政治体制への批判：専制政治から立憲政治へ
ヴォルテールは、イギリスの立憲君主制にも強い関心を示しました。当時のフランスは絶対王政の下にあり、国王の権力は絶対でした。一方、イギリスでは議会が立法権を持ち、国王の権力は制限されていました。
ヴォルテールは、イギリスの政治体制を高く評価し、フランスにも同様の制度が必要であると考えました。彼は、権力が一箇所に集中すると、必ず腐敗と専制につながると主張し、権力分立の必要性を説きました。
彼の主張は、後のフランス革命で実現されることになる、国民主権や基本的人権の尊重といった思想の先駆けとなりました。「哲学書簡」は、フランス社会の旧体制に風穴を開け、新しい時代を切り開くための重要な役割を果たしたのです。