ヴォルテールのカンディード:物語の舞台
ヴォルテールの『カンディード、あるいは楽天主義』は、18世紀の啓蒙思想を背景にした風刺小説であり、物語はさまざまな国と地域を舞台に展開されます。この小説の舞台は、実在の地理的な場所から架空の国まで多岐にわたり、ヴォルテールはこれらの場所を用いて当時のヨーロッパ社会や哲学的思想、特に楽天主義を風刺しています。以下では、物語の重要な舞台について詳しく解説します。
西ファリアの城
物語はドイツの架空の地域、西ファリアの美しい城から始まります。ここは主人公カンディードが育った場所であり、楽天主義の象徴的な場所でもあります。カンディードは、この城でパングロス教授から「この世は最善のものである」という楽天的な世界観を学びます。しかし、カンディードが城から追放される事件を通じて、物語はより広い世界へと展開していきます。
ブルゴーニュ
追放された後、カンディードはブルゴーニュ地方で戦争の残酷さに直面します。ヴォルテールは、この地を使って戦争の虚しさと人間の残酷さを描き出しています。カンディードはこの地で多くの死と破壊を目の当たりにし、彼の楽天主義が初めて試される場となります。
リスボン
物語はさらにリスボンへと移り、ここでは1755年のリスボン地震が描かれます。ヴォルテールはこの自然災害を通じて、神の善意と世界の悲惨さの間の矛盾を探求しています。カンディードとパングロスはこの地震の後、異端審問にかけられます。この場面は、ヴォルテールが宗教的迷信や教会の権威を批判していることを示しています。
エルドラド
物語の中で最も顕著な架空の地域がエルドラドです。この理想郷は、金や宝石が豊富で、住民が平和に暮らしています。エルドラドは、ヴォルテールが楽天主義や理想社会に対して持っていた理想と現実のギャップを表現するために作り出した場所です。カンディードはここで幸福を経験しますが、最終的には外の世界へ戻る決断をします。
ヴェネツィアとコンスタンティノープル
物語の後半では、ヴェネツィアとコンスタンティノープルが舞台となります。ヴェネツィアでは、カンディードが欺瞞と道徳の崩壊に直面します。一方、コンスタンティノープルでは、カンディードが長い旅の終わりに幸福を見つける希望が描かれますが、同時に現実の世界の複雑さも示されています。
ヴォルテールの『カンディード』におけるこれらの舞台は、物語のテーマや風刺の鮮やかな背景を形成しています。それぞれの場所は、ヴォルテールが当時の社会、政治、宗教に対して持っていた批判的な見解を反映しており、読者に深い思索を促すものとなっています。