ヴォルテールのカンディードの思想的背景
1. 啓蒙主義の影響
「カンディード」は、18世紀のヨーロッパ思想界を席巻した啓蒙主義の強い影響下で書かれました。啓蒙主義は、理性と経験に基づいた知識を重視し、伝統や権威に盲目的に従うことを批判しました。
作中では、主人公カンディードが、家庭教師パングロスから「すべて可能な限り最善の世界である」という楽観的な哲学を教え込まれます。 しかし、旅の中で戦争、宗教裁判、自然災害など、さまざまな不幸を経験する中で、この教えに疑問を抱き始めます。 これは、理性に基づいた現実の観察が、伝統的な権威や楽観的な思想に疑問を投げかけるという、啓蒙主義的な視点を反映しています。
2. ライプニッツの「予定調和説」への批判
パングロスの唱える「すべて可能な限り最善の世界」という考え方は、ドイツの哲学者ライプニッツの「予定調和説」を風刺したものです。 予定調和説は、神がこの世界を最善の形で創造したため、一見悪や不幸に見えても、神の大きな計画の一部であると説きます。
ヴォルテールは、リスボン地震などの現実の悲劇を目の当たりにし、予定調和説の楽観的な世界観に強く反発しました。 「カンディード」では、パングロスがどんな悲惨な目に遭っても、無理やりな理屈で予定調和説を擁護し続ける姿を通して、この思想の欺瞞性を痛烈に批判しています。
3. 宗教批判
ヴォルテールは、理性や寛容を阻害する要因として、宗教、特にカトリック教会の教条主義や権威主義を厳しく批判しました。 「カンディード」でも、宗教裁判や宗教戦争の残虐な描写を通じて、宗教の名の下に行われる不条理な行為や、聖職者の偽善を告発しています。
また、作中には、楽園と称されるエルドラドが登場します。 エルドラドには、宗教や司祭はおらず、人々は平等に暮らしています。 これは、ヴォルテールが理想とした、宗教に束縛されない、理性と寛容に基づいた社会の姿を象徴していると言えるでしょう。